【チェストベリー/チェストツリー】
原料植物、ハーブティーに期待される効果効能

「女性のためのハーブ」とも称されるPMSケアの注目植物

女性領域でのサポートが期待できるハーブとして注目されているチェストベリー。紀元前から薬として利用されてきた歴史があり、ドイツのコミッションEではPMS(月経前症候群)に不快症状に対しての利用が承認されています。脳下垂体へ働きかけることでホルモンバランスを整える働きが期待されており、日本でも生理前の不快感対策としてハーブティーやサプリメントに配合されていますが、有効性の評価には研究によりバラつきがあります。

Archilochus colubris at a Vitex agnus-castus - by jeffreyw

チェストツリー/チェストベリーとは

植物紹介:チェストベリー

女性サポートのためのハーブティーやサプリメントで名前を見かける機会が増えたチェストベリー。日本では21世紀に入ってから注目されるようになった植物の一つかもしれません。製品や紹介ページによっては「チェストツリー」と表記されていることもありますが、販売されている健康補助食品類に使用されているのは概ねその果実=チェストベリーと呼ばれる部分です。このチェストベリーが日本でもPMSハーブとして注目されるようになったのは、ドイツのコミッションE(薬用植物を医薬品として利用する場合の効果・安全性の評価委員会)で月経不順やPMSに対する使用が承認され、婦人科医などからも処方されることがあるため。しかし、総合的レビューでは有効性に関する臨床的証拠は限られている・統一性のないことも指摘されていますし、日本では生薬・医薬品として承認されたものではありません。用法用量を守り、自身の体調を確認しつつ取り入れる必要がある食品と言えます。

謳われる効能と名前が先行している部分の多いチェストベリー。果実をつけるチェストツリーはシソ科ハマゴウ属に分類される樹木で、学名はVitex agnus-castus。属名からヴィテックスフルーツやヴィテックスベリーと呼ばれることもあります。原産地は南ヨーロッパ~中央アジアにまたがる地中海沿岸地域で、紀元前に栄えた古代ギリシアなどでも既に知られた存在であったと考えられます。「植物学の祖」とも称されるテオプラストスはチェストツリーを“アグノス(άγνος)”と記録し、古代ローマでは大プリニウスが性欲を抑える働きを持つことから“Vitex”と命名しました。また、紀元前400年頃には「西洋医学の父」ヒポクラテスが脾臓の治療に使用した・出産後に女性に服用するよう勧めた、1世紀には「薬理学と薬草学の父」ペダニウス・ディオスコリデスが子宮トラブルに処方したなどの華々しいエピソードも語られています。

ちなみに、チェストベリーはハーブとしてだけではなく、ギリシア神話におけるスティア・ローマ神話ではウェスタに関係する植物だと信じられていたようです。同一視されることもあるヘスティアとウェスタは、家庭の守護神とされつつ自身は処女神とされていました。ここから貞節を司る女神であるとも考えられ、貞潔を保つと信じされていたチェストツリー(チェストベリー)と結び付けられたようです。古代アテネのご婦人は自分の貞操を守るためにチェストベリーを寝台に置いていたという伝承もありますし、現在呼び名として使われているチェストベリーの“chaste”も貞節や純潔を意味する言葉。種小名Agnus-castusも清純・純粋などの意味を持つギリシア語のhagnosとラテン語のcastusを組み合わせたものと、属名・種名・呼称の全てが「貞潔」を意味する言葉に由来している植物でもあります。現代では性欲抑制には否定的な声が多いようですが。

そのほかチェストベリーにはmonk’s pepper=修道士の胡椒という別名もあり、こちらは修道士が性欲を抑えるために利用していた・胡椒の代用として使われたいた事が由来とされています。中世までのヨーロッパは胡椒が非常に高価だったことから抗催淫薬効果を狙うわけではなく、チェストベリーを香辛料として使用した歴史があります。ヨーロッパではルネッサンス時代に入ったことから再び貞操維持に役立つ性欲減退ハーブとして注目され、子宮・月経トラブルなどにも取り入れられるようになったそう。その後は医学や合成医薬品の発達によって使用される頻度が減っていき、20世紀末頃からドイツを筆頭に各国で伝統医薬(ハーブ)についての研究が盛んになった事でチェストベリーの作用が話題に。忘れられた事に注目され人気を集めるハーブと言えるかもしれません。

基本データ

通称
チェストベリー(Chasteberry)
別名
チェストツリー(chastetree、西洋人参木(セイヨウニンジンボク)、イタリアニンジンボク、モンクスペパー(monk’s pepper)、モンクスベリー(Monk’s Berry)、アブラハムバーム(Abraham’s Balm)、バイテックス(Vitex)など
学名
Vitex agnus-castus
科名/種類
シソ科ハマゴウ属/落葉低木
花言葉
純情、思慕、才能
誕生花
7月18日・22日
使用部位
果実(チェストベリー)
代表成分
フラボノイド類(カスチシン、イソビテキシン、ケンフェロールなど)、イリドイド配糖体(アウクビン、アグヌシドなど)、精油(リモネン、シネオール、ピネンなど)、アルカロイド類
代表効果
プロゲステロン分泌促進・女性ホルモン調整、抗酸化、抗炎症、鎮静、鎮痙、鎮痛、収斂、利尿
こんな時に
月経前症候群(PMS)・更年期障害に伴う諸不調、月経不順、月経過多、イライラなどの精神的不快感、薄毛予防
おすすめ利用法
ハーブティー、ハーブチンキ
ハーブティーの味
胡椒系のスパイシーさを含んだ木の香り、味は苦味と独特のクセがある
カフェインの有無
ノンカフェイン

チェストべリー/チェストツリーの成分と作用

チェストべリーティーに期待される効果

女性特有の不調に

PMS(月経前症候群)の緩和に

チェストベリーが世界的に注目されるハーブとなった理由の一つに、生理2が始まる週間前~数日前から下腹部の痛みや膨満感・むくみ・めまい・イライラ・抑うつ感などの不快症状が表れる月経前症候群(PMS)、精神的不調の重い月経前不快気分障害(PMDD)に対しての有効性を示唆する研究報告が発表されているという事が挙げられます。作用秩序や有効性について断定はされていませんが、チェストベリーに含まれるイリドイド配糖体・フラボノイド・アルカロイドなどが複合して脳下垂体を刺激し、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)分泌を抑制する・黄体形成ホルモン(LH)やプロゲステロンの合成を促すのではないかと考えられています。

結果としてエストロゲンとプロゲステロンの分泌バランスを整える=ホルモンバランスを整える事に繋がり、排卵時から月経開始時までの期間に表れる諸症状の軽減効果が期待されています。また、ホルモン分泌をコントロールしている下垂体の近くには、下垂体へと指令を出す“視床下部”が存在しています。この視床下部はホルモン分泌以外に自律神経など体を維持するために必要な機能を調節する働きもあり、ホルモンバランスの乱れからホルモン分泌の司令塔である視床下部に負担がかかる→自律神経の乱れによる不調(イライラ、抑うつ、めまい、不眠、腹部膨満感、体液鬱滞、便秘、頭痛など)が併発することもPMSによる深い症状の原因・悪化要因として考えられています。このため下垂体の働きを促しホルモンバランスを整えることによって、チェストベリーはPMSによる様々な不調の改善に役立つのではないかと期待され健康食品類にも取り入れられているのです。

とは言え、PMS/PMDDの原因や発生条件についても全てが解明されているわけでは有りませんし、チェストベリーの作用・有効性を断定するのに値する臨床的証拠は限られていると指摘されています。ドイツではPMS(月経前症候群)の諸症状に対して一定の効果が見られることが報告され医薬品としての使用も承認されていますが、出版バイアス・過大評価を指摘するシステマティックレビューも存在しています。例えば2000年に『Journal of Women s Health & Gender-Based Medicine』に掲載されたチェストベリーを含む植物製剤の試験では、1634人の被験者のうち94%がPMS症状が軽減されたと評価したことが報告されています。が、この実験は対照群が含まれておらずプラセボ効果だどの程度だったかわからないことが指摘されています。

もちろんチェストベリー・チェストベリー抽出物を含む製剤を使ったプラセボ対照二重盲検試験でも有効性を報告しているものはあります。チェストベリーが何らかの形でPMS症状を緩和するという報告は多くなされているものの、結果については不均一であることから現時点では“おそらく効果がある”という曖昧な評価にならざるを得ないようです。子宮強壮やホルモンバランス調整に役立つとされるアンジェリカや、抗うつ効果が期待されるセントジョーンズワートと組み合わせた健康補助食品が多く販売されてはいますが、過度な期待は避けましょう。また、チェストベリーは即効性があるものではなく、効果を実感できるのは使用開始からおよそ2ヶ月程度と考えられています。期間については個人差もありますから、副作用・体調の悪化を感じなければ3ヶ月~半年程度続けてみると良いでしょう。


更年期障害の軽減にも

チェストベリーの持つ脳下垂体への刺激作用はPMS(月経前症候群)だけではなく、女性ホルモンの減少によって視床下部の負担が増加して起こる更年期障害の軽減にも効果が期待されています。更年期障害の直接的な原因はエストロゲンの分泌低下とされていますが、指示通りにホルモンが出ないことで視床下部に負荷がかかり自律神経のバランスが乱れることで生じる自律神経失調症のような不調も少なくないことが分かっています。チェストベリーはホルモンバランスを整えることでこうした症状の軽減が期待され、エストロゲン様作用が期待されるレッドクローバーやワイルドヤムなどと組み合わせてサプリメントなどに使用されています。

2003年8月の『Complementary Therapies in Nursing and Midwifery』に掲載されたチェストベリー抽出物に関しての研究では、2000年に閉経期女性23人を対象とした実験では気分障害や睡眠庄内など一般的な更年期症状の強い症状の軽減を示したこと、2002年の後続実験でも寝汗やほてりの改善が示された事が報告されています。しかし2009年『Menopause』に発表されたオーストラリアで閉経後の女性100人を対象に行われた無作為化比較対照試験では、セントジョーンズワートとチェストベリーを組み合わせたハーブ製剤について“更年期症状の治療においてプラセボとの有意差は認められなかった”と報告されています。PMS軽減と同等以上に有効性については不明、セルフケアの一つとして取り入れてみても良いかなと言うレベルですね。


月経トラブル・妊活にも期待

チェストベリーは約2000年前にペダニウス・ディオスコリデスが子宮トラブルに処方したとも伝えられ、中世には通経薬(月経を促進させる薬)として利用されてきた歴史があります。現在はホルモンバランス調整作用が期待できる=PMS/PMDDや更年期障害に対しての有効性が研究され注目されていますが、ホルモンバランスを整えて正常な排卵を促すことから月経周期の正常化に期待できるのではないかという見解もあります。自然療法では経口避妊薬の使用を中止した場合のホルモンバランスの乱れ緩和や、自然な排卵力の回復をサポートするハーブとして用いられることもあるようです。

また、ホルモンバランスを整え排卵を促す可能性があることから、黄体の機能不全による月経過多・不妊症治療などの面でもチェストベリーの研究が行われています。1993年に『Arzneimittel Forschung』に発表されたドイツの小規模なランダム化比較試験ではチェストベリー製剤を投与したグループにはプロラクチン放出の減少、黄体期の正常化、黄体期プロゲステロン合成・エストラジオールの増加が見られたことを示し、潜在性高プロラクチン血症による黄体期欠損の治療に対しての有効性を示唆しています。このためチェストベリーは女性の体をサポートしてくれる「女性のためのハーブ」として注目を集めましたが、3か月毎日3回服用しても妊娠する可能性は増加しないという結果の報告もあります。月経トラブルや不妊の原因も人それぞれですし、チェストベリーの有効性も断定されたものではありませんから、摂取する場合も薬ではなく食品であることを念頭に置く必要がありますね。


授乳期の使用は避けたほうが無難

チェストベリーは古くは催乳薬、母乳の出を良くするハーブとしても伝統的に使用されてきました。現在でもチェストベリーに含まれているイリドイド配糖体・フラボノイド・アルカロイドなどの成分が何らかの形で脳下垂体を刺激する可能性は示唆されていますが、母乳分泌促進のための使用は避けたほうが良いと考えられています。というのも、乳腺を刺激して母乳の分泌を促す働きを持つホルモンはプロラクチンのため。

上記でご紹介したドイツの研究をはじめ、チェストベリーに“プロラクチンの合成・放出の減少”が見られたという報告が多くなされています。PMSの軽減に役立つと考えられるのも、プロラクチン分泌を抑制することで黄体形成ホルモン(LH)やプロゲステロンの合成を高めるためとの見解が多くなっています。低用量で使用すると乳量を増加させる可能性があるとしている報告もありますが、個人で摂取量を見極めるのは難しいこと・ホルモンバランスに影響を与える恐れがあることから、授乳中に自己判断でチェストベリーを摂取することは避けた方が良いでしょう。チェストベリー配合のサプリメントも授乳中の使用を禁忌としているものが多くなっています。

そのほか期待される作用

抗酸化のサポート

チェストベリーにはケンフェロールやイソビテキシンなどのフラボノイド系ポリフェノールが含まれていることから、摂取することで活性酸素/フリーラジカルによる酸化を抑制する事にも繋がると考えられています。またイリドイド配糖体の一種であるアウクビン(Aucubin/オークビンとも)には抗炎症作用や鎮痙作用を持つ可能性も報告されており、抗酸化作用と合わせて動脈硬化などの心血管疾患予防にも効果が期待されている成分。ヨーロッパの民間療法の中では健胃整腸剤的な使われ方をすることもあるそうですが、これも抗酸化作用や鎮痙作用を持つことと関係しているのかもしれません。


精神面のサポートに

チェストベリーはホルモンバランスを整える働きが期待できることから、ホルモン分泌に関連して視床下部・自律神経の働きが乱れることで起こるイライラ・不安・抑うつ(気持ちの落ち込み)・神経過敏などの情緒トラブル軽減にも活用されています。しかしながら13世紀頃には月のリズムとは関係なく精神病やヒステリーなど精神疾患の治療に利用されていた歴史があること、現在でもエジプトなど一部地域の民間療法の中でチェストベリーはヒステリーに対する鎮静剤として販売されていることから、ホルモンバランスの乱れに起因しない精神的トラブルの緩和にも役立つのではないかという見解もあります。

とはいえ、こちらは研究がほとんど行われていないので更に不明瞭。症状が重い場合には医師の診断と治療を受けることをお勧めしますが、「生理が終わっても気持ち的にスッキリしない」くらいの場合は取り入れてみても良いかもしれません。


バストアップ・ニキビ予防について

ホルモン系への働きかけを持つ可能性があるハーブであることから、チェストベリーはバストアップや美肌保持など美容面のサポーターとしても注目されています。チェストベリーの摂取で分泌増加(正常化)が期待されている女性ホルモンのプロゲステロンは着床・妊娠状態を保つ役割のあるホルモンで、乳腺の発達にも関わっています。このためバストアップにも繋がるのではないかと注目されサプリメントなどにも配合されていますが、バストアップに繋がるかは疑問が残る部分です。また、ホルモンバランスの調節からニキビや肌荒れ予防に役立つのではないかという見解も。実際にニキビ治療に対しての有効性を示した研究報告もありますが、有効性を示したものは古く、近年の研究になるほど効果は見られないという報告が多くなっています

チェストベリーの注意事項

  • 妊娠中・授乳中・18才未満の方は利用を避けましょう。
  • チェストベリーはホルモン系統に影響を与える可能性があるハーブです。婦人科系疾患や炎症(乳癌、子宮癌など)がある方、ホルモン補充療法を受けている方は使用可能かを医師に相談の上で決定してください。
  • パーキンソン病、精神病性障害のある方は使用を避けましょう。
  • 経口避妊薬の効果阻害する場合があります。
  • チェストベリーは副作用の少ないハーブとされていますが、人によりめまい、疲労感、頭痛、口渇、吐き気ほか胃腸の不調、かゆみなどが表れることもあります。体調に異変を感じたら即座に使用を中止し、症状が重い場合は医療機関を受診してください。

参考元