前立腺トラブルや薄毛対策に注目される
日本ではノコギリヤシの名でサプリメントなどに配合されているソウパルメット。アメリカ原産のヤシ科植物の果実で、テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する酵素5α-レダクターゼの活性を阻害する働きを持つ可能性がることが報告されており、男性の前立腺肥大を抑制する可能性があるハーブとして注目されています。ジヒドロテストステロン増加が原因と考えられる男性の排尿トラブル・男性型脱毛症予防にも期待されるほか、女性のサポートにも役立つのではないかという説もありますよ。
Contents
ソウパルメットとは
植物紹介:ノコギリヤシ
日本ではノコギリヤシという和名で、健康食品類などに使用されているソウパルメット。ノコギリヤシはアメリカ合衆国南東部に自生していた固有種で、和名の通りやヤシ科に分類されている“ヤシの木”の一種。植物としては高さ2~4mとヤシ科の中では小型なこと・呼び名に付いているSaw(ノコギリ)の由来ともなっているギザギザと扇形に広がった葉の形が特徴です。和名のノコギリヤシはソウパルメットを直訳したものですね。学名はSerenoa repensで、種小名のrepensは“地を這う(匍匐性)”という意味。
アメリカ大陸で古くから生活していたネイティブアメリカンの方々は、古くから身近な植物としてノコギリヤシを活用してきたと伝えられています。葉は家を作る時の“茅葺き”のような形で活用されたようですし、果実は貴重な食料の一つとして食してきました。熊や鹿など野生の動物たちもソウパルメットの果実を食べているため、ソウパルメットの実を食べている動物の毛並みが良いことに気づいたのが利用するきっかけだったという逸話もありますよ。スタミナ食として活用していたほか、男性の強壮剤や利尿剤として、魚を食べたときに起こる中毒症状の治療になど、一種の生薬として用いていたという説もあります。ノコギリヤシ(ソウパルメット)はコロンブスによる新大陸到達後、アメリカ大陸原産の植物としてヨーロッパへと紹介されました。
と言っても当初は果物として紹介されたわけではなく、珍しい観葉植物や繊維植物程度の扱いだったそう。これはノコギリヤシ果実がお世辞にも美味しいと言えないものだったため。1696年にフロリダ海岸で難破したJonathan Dickinsonは著書の中でその不味さを綴っているそう。しかし20世紀初頭までには前立腺トラブルに対する伝統医薬品の一つとして用いされていたそうですし、1960年頃からアメリカやヨーロッパで本格的な研究が行わるようになりました。そして1990年にフランスのシャンポール博士が前立腺肥大肥大への効果を報告したことで、欧米の医学界・ハーバリストたちに注目される植物となっていきました。ドイツのコミッションE(薬用植物を医薬品として利用する場合の効果・安全性の評価委員会)では良性前立腺肥大症ステージIおよびIIの排尿問題に対しての使用が承認されており、規定を満たしたノコギリヤシ抽出物は医薬品と泌尿器科などでも処方されています。
ただしノコギリヤシエキスを使用した実験では有効性が報告されている反面、“プラシーボより効果的であると認められない”との報告もあり、その有効性については現在も研究が行われています。日本では医薬品ではなく健康食品として「ノコギリヤシ」が生殖器系や泌尿器系のサポーターとして、特に中高年の男性層に取り入れられています。原産地であるアメリカでも中高年層では最も一般的に使用されている栄養補助食品の一つとも称されていますよ。またノコギリヤシ=男性機能という印象があったものの、近年は男性の前立腺トラブルだけではなく、抜け毛予防やホルモンバランス調整への有効性などが期待できることも報じられ、女性用のサプリメントにも配合されることが増えています。
基本データ
- 通称
- 鋸椰子(ノコギリヤシ)
- 別名
- Saw palmetto(ソウパルメット/ソー・パルメット)、サバル(Sabal)、ノコギリパルメット、棕櫚子(シュロシ)、セレノアベリー(Serenoa berry)など
- 学名
- Serenoa repens
(syn.Sabal serrulata) - 科名/種類
- ヤシ科ノコギリパルメット属(シェロ属)/低木
- 花言葉
- 勝利 (※ヤシ科共通)
- 誕生花
- –
- 使用部位
- 果実
- 代表成分
- フィトステロール(β-シトステロール、スティグマステロール)、遊離脂肪酸類(オレイン酸、リノール酸、ラウリン酸)、フラボノイド、タンニン、精油
- 代表効果
- 5α-レダクターゼ酵素阻害・ジヒドロテストステロン抑制、抗菌・尿路殺菌、利尿、鎮静、鎮咳、抗酸化、強壮、催淫
- こんな時に
- 良性前立腺肥大症(BPH)・前立腺疾患予防、排尿障害(頻尿、残尿感など)予防、性欲増進、抜け毛予防
- おすすめ利用法
- ハーブティー、ハーブチンキ
- ハーブティーの味
- 油っぽく発酵したような独特の香りがあるが、味はほぼしない
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
ノコギリヤシ(ソウパルメット)の成分と作用
ノコギリヤシ茶に期待される効果
男性機能・排尿トラブルに
良性前立腺肥大症(BPH)の予防・緩和
ノコギリヤシの果実は前立腺肥大症(BPH)の治療に対する有効性が報告され、現在も治療薬としての応用が研究されています。作用秩序などは解明されていない部分もありますが、ノコギリヤシに含まれているβ-シトステロールなどのフィトステロール類に5α-レダクターゼ酵素を阻害することで、テストステロンのジヒドロテストステロン(DHT)を抑制する働きがあることに起因すると考えられています。
男性ホルモンの一つにテストステロンがあります。テストステロンは生殖機能維持や性欲に関係するホルモンですが、加齢などに伴って女性ホルモンと同じ様にテストステロンの分泌バランスも崩れてしまいます。このテストステロンが前立腺細胞に取り込まれると、5α-リダクターゼ(5α還元酵素)によって“ジヒドロテストステロン(DHT)”に変化します。前立腺肥大の原因については完全に解明されているわけではありませんが、ジヒドロテストステロン(DHT)が前立腺の受容体を刺激して前立腺細胞の増殖に働きかけることが前立腺肥大の原因になると考えられています。テストステロンがジヒドロテストステロンに変換されすぎることが、前立腺肥大のリスクを高めるというわけですね。
このため前立腺肥大の治療には5α還元酵素阻害薬と呼ばれる、5α-リダクターゼの働きを抑えるお薬が使用されています。ノコギリヤシ(ソウパルメット)に含まれているステロール類もこの薬と同じように5α-リダクターゼの働きを阻害し、ジヒドロテストステロン(DHT)の生成を抑制する働きを持つ可能性が報告されています。またDHTが前立腺内に留まることを防ぐ働きを示唆した報告もあることから、良性前立腺肥大症の予防や改善に注目されているのです。
ただしイギリスの『コクラン共同計画』では良性前立腺肥大症(BPH)の男性にノコギリヤシ抽出物を2回および3回投与しても、男性の前立腺サイズまたは尿路症状の改善は見られなかったという報告もなされています。良性前立腺肥大症に対して有効性が多く報告されている一方で、プラセボ以上の効果はない・無効であるという報告も少なくないのが現状です。作用については使用されたノコギリパルメット抽出物(成分)によって違うという見解もあり、現在でも効果が実証されているものではないと言えます。前立腺肥大症の予防策として健康茶やサプリメントとして取り入れるのは良いですが、明らかに変調を感じている場合は医療機関で適切な処置・投薬を受けるようにしてください。
排尿トラブルに
ノコギリヤシ(ソウパルメット)は世界各国で排尿トラブルのサポーターとして親しまれているハーブでもあり、時には“植物性のカテーテル”と称されることもあるほど。日本でも頻尿や残尿感にお悩みの男性向けのサプリメントなどの成分として見かけることがあるのではないでしょうか。ノコギリヤシが男性の排尿トラブル対策として取り入れられているのも、5α-リダクターゼを阻害してジヒドロテストステロン(DHT)の生成を抑制する働きが期待出来ることが主な理由と言えます。
ジヒドロテストステロン過多によって前立腺が肥大してしまうと、肥大した前立腺に尿道が圧迫されることで頻尿や尿の出の悪さ・排尿時の痛み・残尿感などのトラブルの原因となります。このため前立腺肥大を予防してくれる可能性のあるハーブとして注目されているわけです。しかし前立腺肥大症(BPH)に対する有効性についても不確定な部分がありますし、尿路症状の改善は見られなかったという報告もありますから、それに伴う男性排尿トラブルに対する有効性も認められたものではありません。医薬品ではなく健康食品の扱いですから、過信は禁物です。
薄毛予防・発毛促進にも期待
断定はされていませんが、加齢と共に男性の髪が薄くなる男性型脱毛症(AGA)の原因についても、原因の一つとして酵素5αリダクターゼとテストステロンが結合して、ジヒドロテストステロン(DHT)が過剰に発生することが挙げられています。ジヒドロテストステロンがホルモンレセプターと結合すると、TGF-βと呼ばれる脱毛因子が活性化して毛母細胞の分裂を抑制することで髪の毛が抜け落ちてしまうようになります。
ノコギリヤシ(ソウパルメット)は5α-リダクターゼの働きを阻害してジヒドロテストステロンの生成を抑制することから、脱毛因子の働きを抑えることにも繋がると考えられています。薄毛治療にも5α還元酵素阻害薬が使用されることがありますから、可能性としては十分にありますね。加えて毛根の炎症を引き起こす抗炎症物質(LTB4)を抑制する働きを持つ可能性も報告されていることから、抜け毛を防いで薄毛の進行を抑制する働きが期待されています。
女性のソウパルメット(ノコギリヤシ)摂取について
女性らしさを保つ
日本では“男性向け健康食品”というイメージの強いノコギリヤシですが、女性の体に対してもメリットがあるのではないかと考えられています。男性ホルモンとは呼ばれていますがテストステロンは女性の体内でも分泌されていますし、5α-リダクターゼも存在しています。ストレスなどによって女性の男性ホルモン分泌が増えてホルモンバランスが乱れる可能性もあり、無月経や体調不良・薄毛・体毛が濃くなるなどの症状が現れることも認められています。
こうした症状の原因となるテストステロンの上昇を示す女性は、5α-レダクターゼ酵素活性が過剰な可能性があることも指摘されています。このため5α-レダクターゼ酵素阻害作用が期待されるノコギリヤシ(ソウパルメット)は女性の月経トラブル予防やバストアップなど女性らしい体のライン作りにも役立つのではないかと考えられています。また男性ホルモンの過剰生成は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因ともなることから、ノコギリヤシ果実のPCOSおよび無月経・不妊緩和に対する有効性も研究されています。
ただしこうした働きは医学的根拠と呼べるような十分なデータはなく、現状では可能性段階の話です。ノコギリヤシの過剰摂取は厳禁であり、体内で対応出来る量以上を摂取してしまうと逆に男性ホルモンの増加を起こすリスクも指摘されています。ハーブティーやドライフルーツとして摂取する場合はさほど心配はありませんが、抽出物を利用したサプリメントなどを摂取する場合は注意が必要です。疾患がある方は医師へ事前に相談し、用法用量を守っている場合であっても不調を感じた場合は使用を中止しましょう。
女性の薄毛対策にも
かつて年齢とともに女性の髪が薄くなることは、閉経によって丈夫な髪を育ててくれるエストロゲンが減少することが主な原因と考えられてきました。しかし近年はストレスや不規則な生活からホルモンバランスを崩れる・男性ホルモンの分泌が増加することで“男性型脱毛症”と呼ばれる抜け毛・薄毛が少なくないことも指摘されています。この男性型脱毛症は5αリダクターゼがテストステロンを変化させて出来る、ジヒドロテストステロン(DHT)が脱毛因子TGF-βを活性化させてしまうことが原因。
このため男性と同じく、5α-レダクターゼ酵素阻害作用が期待されるノコギリヤシ(ソウパルメット)の摂取や局所塗布によって薄毛予防に繋がるのではないかと考えられています。ちなみに髪が細くなることで頭髪が薄くなったように感じる場合はエストロゲン不足による女性型脱毛、生え際の後退や頭頂部の薄毛などを感じる場合は男性型脱毛の可能性が高いと言われています。
排尿トラブルについて
前立腺とは関係ない女性も、年齢とともに頻尿や残尿感を覚えるようになる場合があります。こうした女性の排尿トラブルの原因については膀胱周辺の筋力低下や冷え、子宮と膀胱の位置関係、精神ストレスなど、様々な要因が考えられています。ノコギリヤシが尿トラブル対策として注目されている主な理由は5α-レダクターゼ酵素阻害によるジヒドロテストステロン生成抑制ですから、女性の尿トラブルに対しては有効性は期待できないとする考えが一般的となっています。ホールテールやネトルなどのハーブを活用する方の方が多いようです。
しかしノコギリヤシは男性ホルモンへの働きかけ以外に、利尿作用や抗炎症作用がある・尿道括約筋の強化を助けるという説もあります。ジヒドロテストステロン生成抑制よりもさらに根拠・信憑性はない説にはなりますが、女性でも頻尿や残尿感の改善効果を実感したという方がいらっしゃるそうです。体質やトラブルを起こす原因は人それぞれ違いますから、軽度の不調に対してであれば取り入れてみても良いのかも知れません。
そのほか期待される作用
免疫力向上・健康維持に
ノコギリヤシ(ソウパルメット)は脂肪酸類だけではなく、抗酸化作用を持つフラボノイドやタンニンなども含んでいます。このため抗酸化作用によって免疫力を正常に保つ手助け、タンニンによる抗菌作用も期待できるでしょう。また伝統医療の中ではノコギリヤシには鎮咳作用があると考えられ、風邪予防や鼻・喉の不快感、気管支炎などの症状緩和にも用いられています。
アメリカ大陸に辿り着いたヨーロッパ人達からは大不評の味でありながら、ノコギリヤシの果実はネイティブアメリカン達が滋養強壮薬感覚で食していたものであるという伝承もあります。漢方でも体力回復に役立つ食品として用いられることがあるそうですから、体力増進や疲労回復に対して何らかの手助けをしてくれるのではないかという説もありますよ。
性欲増強にも…
テストステロンの減少は男性だけではなく、女性の性欲を減退させる原因となる可能性も指摘されています。ノコギリヤシは酵素5α-レダクターゼの活性を阻害することでテストステロンの分解を抑制し、男性ホルモンの分泌を整えることで健全な性欲を保つ働きがあるのではないかという説もあります。ホルモンバランスを整えることは男女共に生殖能力を正常に保持することにも繋がりますから、不妊緩和や妊活のサポートに利用されることもあるそう。ただし実質的な根拠・証拠はありませんし、過剰摂取は逆効果になる危険性も指摘されているため注意が必要です。
お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果
肌・頭皮のケアに
ノコギリヤシ抽出物には殺菌作用や皮脂分泌調整作用が期待されていることから、脂性肌のケアやニキビ予防などにも役立つのではないかと考えられています。スキンケア用としてはほとんど用いられていませんが、ヘアトニックなど頭皮ケア商品には使用されることもあるようです。テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する酵素5α-レダクターゼは前頭部~頭頂部の毛乳頭に多く存在していることから、ノコギリヤシ抽出物を塗布することで頭皮の脂っぽさを抑えるだけではなく、脱毛抑制・発毛促進に繋がると期待されています。2016年にタイで50人の男性を対象に行われたノコギリヤシ抽出物を含む局所用製品を使用した実験では、12週目と24週目に毛髪数が増加したという報告もなされています。
ソウパルメット(ノコギリヤシ)の注意事項
- 妊娠中・授乳中の方、お子様への利用は避けましょう。
- 医薬品を服用中の方・ホルモン療法を受けている方は医師に相談してください。
- めまい・頭痛・吐き気などの副作用を感じることが指摘されています。