【セントジョーンズワート】
原料植物、ハーブティーに期待される効果効能

気持ちを明るくしてくれる「ハッピーハーブ」とも言われるが…

抗うつ剤と同等の効果があるとも言われ、気持ちの落ち込みを和らげて精神を落ち着かせてくれるハーブとして注目されているセントジョーンズワート。メンタル面への効果を期待しての使用は古くから行われてきましたし、日本での知名度も高いハーブの一つではありますが、その有効性については未だに認められていません。PMSや更年期障害の軽減についても諸説ありますから、過度な期待は避けたほうが良いでしょう。また様々な医薬品との相互作用が報告されているため、自己判断での使用には注意が必要とされているハーブの一つでもあります。

セントジョーンズワート(St. John's wort)イメージ画像

セントジョーンズワートとは

植物紹介:セイヨウオトギリソウ

気持ちの落ち込みのような、メンタル面の不調軽減に役立つハーブとして一世を風靡したセントジョンズワート。ドイツでは医師が軽度のうつ病に対して処方しているということ、アメリカでも暗い気分を明るくするために・更年期障害や月経前症候群(PMS)などに伴う憂鬱感を緩和するための「ハッピーハーブ」や「サンシャイン・サプリメント」と呼ばれサプリメントなどが活用されていることが報じられ、日本でも健康食品などに配合されるようになっていますね。植物として見るとセントジョンズワートはオトギリソウ科、分類法によってはテリハボク科に分類される多年草です。珍しいハーブのように思いがちですが、場所によっては普通に道端に生えている雑草(野草)でもあり生態系を壊す・家畜に害があるなどの理由から有害な外来種に認定している地域もありますよ。

“セント”ジョンズワートという呼び名は、キリスト教の洗礼者ヨハネにちなんで命名されたと考えられています。キリスト教の洗礼者ヨハネの祝祭日6月24日「聖ヨハネの日(St. John’s Day)」に合わせたように花を咲かせるためという説が知られていますが、ヨハネが首を落とされた時に出来た血溜まりから生えてきた植物であるという伝承もあります。セントジョーンズワートの和名は西洋弟切草(セイヨウオトギリソウ)。この弟切草という部分にも、首を落とされた洗礼者ヨハネと同じ様な不吉な響きがありますね。弟切草はセントジョーンズワートとは別の植物ですが、呼び名の由来には“この草を原料にした鷹の傷を治すための秘薬を持っていた鷹匠兄弟がいたが、弟がその秘密を漏らしてしまい怒った兄に斬り殺された”という逸話があります。

セントジョーンズワート(西洋弟切草)も弟切草も、葉には血飛沫が掛かったように見える褐色の斑点(油点)があり、花を押し潰すと赤い液体が出てくるという特徴があります。そのあたりが、地域を問わず不吉なエピソードを想像させたのかも知れません。暗いイメージを持たれるセントジョーンズワートですが、実は薬草として非常に古くから人々に評価されていたという歴史もあります。原産エリアである古代ギリシアでは紀元前のうちからセントジョーンズワートが利用されていたようです。医学の祖と称されるギリシャの名医ヒポクラテスがよく効く薬草として紹介したうちの1つであると伝えられていますし、薬草学の父と言われるディオスコリデスもその薬効について言及しています。現在ほど医学や薬学が発達していない時代ではありますが、経験的にギリシア人達は何らかの働きを持つ草であるということを知っていたのでしょう。

ちなみにセントジョーンズワートは宗教・神秘的な目的のためにも使用されていました。ギリシアやローマではセントジョーンズワートを神像の上に置き邪悪な霊を払おうとしたとも言われていますし、「聖ヨハネの日」の植物として使われるようになったのも悪魔・悪霊による害を払って精神状態にメリットをもたらすことが関係していたのではないかという説もあります。属名のHypericumもギリシャ語の“hyperikon”が語源とされ、断定はされていたないものの“hyperikon”はhyper(越える)+eikon(幽霊)を合わせた言葉ではないかと考えられていますよ。中世になると悪霊を払う薬草であるという部分がフォーカスされるようになります。窓辺に吊るしておくと悪霊が家に入ってこない・枕の下に入れて寝ると運命の人が夢に現れるなどの民間信仰も多かったようです。また当時は精神・神経性疾患についても一種“悪魔憑き”のようなものだと考えられていましたがから、こうしたトラブルの治療に用いられることも増えていったのでしょう。

どちらかと言えば宗教的・神秘的なパワーを持つ植物と考えられてきたセントジョーンズワート。近代化と共にその需要は減少していましたが、1980年代にドイツの研究者達によって「うつ病に対して有効性があるハーブ」であると発表されたことで再び脚光を集めるようになります。ドイツでは有効性に対する報告が多くなされたことで抗うつ剤として使用されるようになり、他の国々でもハーブティーや抽出物を配合したサプリメントが心の不調を感じる方たちに取り入れられるようになっていきました。しかし現在は「偽薬以上の効果は見られない」という報告も多くあり、その有効性を疑問視する声や、医薬品を阻害するケースが少なくないことから健康食品として自己判断で摂取べきではないという警告も出されています。

基本データ

通称
セントジョーンズワート(St. John’s wort)
別名
西洋弟切草(セイヨウオトギリソウ)、ハッピーハーブ、サンシャインハーブ、小連翹(ショウレンギョウ)など
学名
Hypericum Perforatum
科名/種類
オトギリソウ科オトギリソウ属/多年草
花言葉
秘密、迷信、盲信、恨み、敵意
誕生花
6月14日、11月19日
使用部位
地上部(花、葉、茎)
代表成分
ヒペリシン、ヒペルフォリン(hyperforin/ハイパーフォリンとも)、フラボノイド類(ルチン、クエルシトリン、ケルセチン、ケンフェロール、ルテオリンなど)、精油、脂肪酸類、タンニン
代表効果
抗うつ、抗炎症、鎮痛、鎮痙、治癒促進、収れん
こんな時に
軽度の抑鬱(気持ちの落ち込み)、ストレス、不安、不眠、更年期障害、PMS(月経前症候群)、生理痛、神経痛、筋肉痛
おすすめ利用法
ハーブティー、ハーブチンキ、浸出油、湿布
ハーブティーの味
やや漢方薬のような土臭さ・苦味があるため、好き嫌いは分かれる
カフェインの有無
ノンカフェイン

セントジョーンズワートの成分と作用

セントジョーンズワートティー/西洋オトギリソウ茶に期待される効果

心・精神面のサポートについて

心・精神面のサポートに

古くは古代ギリシアから精神に対して何らかの働きかけを持つと考えられ、中世には気分を落ち着かせる働きから悪魔祓いになるとまで考えられた歴史のあるセントジョーンズワート。現代でも気分の落ち込みを和らげる働き・抗うつ剤と同等の有効性があるハーブとして、ドイツを中心にうつ病の治療にも取り入れられています。その有効性については賛否両説であり、日本やアメリカでは認証されていないことは下部でご紹介しますが、まずは期待されている作用について紹介していきます。

セントジョーンズワート以外にも精神面でのサポーターとしての働きが期待されているハーブは少なくありません。その中でもセントジョーンズワートが注目されているのは、ラベンダーパッションフラワーなど多くのハーブが「興奮・緊張した神経を落ち着ける」働きが期待されている一方で、セントジョンズワートは「暗く沈んだ心に明るさを取り戻す」働きが期待されているという点が大きいと言えるでしょう。作用秩序などについては解明されていませんが、セントジョーンズワートが抗うつ効果を有するのはセロトニンの再吸収を阻害するためであると考えられています。

諸説ありますが、セントジョーンズワートが抗うつ効果を発揮するは「ヒペルフォリン(ハイパーフォリンとも)」と「ヒペリシン」という2つの成分の働きによって、セロトニンの再吸収を防いでセトロニン濃度を保つためであるという見解が主流となっています。気分が落ち込んだり無気力感を覚える“抑鬱”状態になる原因の一つとして、脳内の神経細胞に情報を伝達する神経伝達物質のセロトニンの不足があり、脳神経細胞へと正常に情報伝達が行われないということが考えられています。シナプスにおけるセロトニンの濃度が低下して、セロトニン受容体にセロトニンが作用しにくくなることがうつ病の原因というのは有力な仮説の一つ。うつ病に対して処方される薬として「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」がありますが、これもセロトニン再取り込みを阻害することで、セロトニン濃度の低下を防ぐことを目的としているお薬ですね。

セントジョーンズワートに含まれているヒペリシンは神経伝達物質を分解するモノアミン酸化酵素の働きを抑え、ヒペルフォリンはセロトニンが他の神経細胞に再吸収されるのを防ぐことでセロトニン分泌量を調整・濃度を上昇させる働きがあると考えられています。2003年に医学雑誌『CNS Drugs』に掲載されたレビューでは、セントジョーンズワートがセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンのレベルを調節して抗うつ作用を発揮すると考えられることが書かれています。2006年の『systematic reviews』に掲載されたセントジョーンズワートの系統的レビューでは、軽度および中度のうつ病の症状改善においてプラセボよりも優れていると結論付けられています。このためSSRI系医薬品のような即効性はないもののうつ病予防・改善効果を持つハーブとしてセントジョーンズワートが注目され、ストレス対策や季節性情緒障害の緩和などにも役立つのではないかと期待されています。


不眠症対策としても

セロトニン濃度を正常に保つ働きを持つと考えられていることから、セントジョーンズワートは不眠対策効果が期待できるハーブとしても用いられています。これは眠りに就く状態を作るために必要なことから“睡眠ホルモン”とも呼ばれるメラトニンの合成時に、セロトニンが材料として利用されることが関係しています。余談ですが不眠症対策ににトリプトファンを摂取すると良いと言われるのもトリプトファン⇒セロトニン⇒メラトニンと生合成が行われるためで、日中は光を浴びようと言われるのもセロトニンの分泌を高めるためです。

メラトニンは副交感神経が優位な状態に切り替え、脈拍・体温・血圧などを低下させることで自然な眠りを誘う作用があります。このため間接的にではありますがメラトニンの分泌を整える働きを持つ可能性があるセントジョーンズワートが不眠対策として注目されることとなっているわけです。また精神を落ち着けて気持ちを安定させることから、眠ろうとすると不安など色々なことを考えてしまって頭が冴えてくるような状態を軽減してくれるという説もありますよ。


抗うつ効果に対しての否定意見・注意点

上記でご紹介したように抗うつ薬に準じる働きが報告されている一方で、セントジョーンズワートと偽薬(プラセポ)を比較しても差異はない、あるいは極めて小さい効果しか示さないという報告もなされています。もちろんセントジョンズワートはプラセボよりも優れていることを示唆した報告もありますが、ドイツ語圏での試験結果は他の国々の結果よりも優れた効果を示しているという指摘もあります。

このためセントジョーンズワートの有効性については結論付けられていないというのが実状であり、アメリカのFDA(食品医薬品局)でも処方薬・市販薬どちらにも承認されておらず栄養補助食品として分類されています。日本でも基本的には(薬効を標榜しない限り)食品という扱いになっています。ただしセントジョーンズワートは様々な医薬品と相互作用があることも問題視されています。このため食品として扱われており消費者が自由に摂取できる日本でも欧米であっても、うつ病と診断されている方・医薬品を服用している方については「医療提供者の指導の元で使用すべきである」という警告がなされています。自己判断での摂取は控えて下さい。

それ以外にも、うつ病の方が医療機関を受診せず自己判断でセントジョーンズワートを摂取することで、早期治療のタイミングを逃してしまうという指摘もなされていますから、明らかに心の状態がおかしいと感じた場合は医療機関で診てもらうことをお勧めします。何らかの効果を期待する場合であっても、あくまでも「一時的な気分の落ち込み」落ち着きの無さを感じた時にリラックスを助けてくれるかもしれないお茶」という位置付けです。ハーブは薬ではありませんから、過度な期待は避けるようにしましょう。

そのほか期待される作用

女性特有の不調に

セントジョーンズワートはPMS(月経前症候群)や更年期障害など、女性領域での不調軽減に役立つのではないかと考えられています。イギリスの心理学研究所で行われた軽度のPMSと診断された18~45歳の女性36人に対する研究では、プラセボ摂取群よりもセントジョーンズワート摂取群の方が有為なPMSの身体的および行動的症状の改善が見られたという報告もなされています。そのほか精神面のトラブルや疲労・食欲異常などのPMS症状に50%近い軽減効果を持つ可能性を示唆した報告もありますが、逆に「セントジョーンズワートを摂取しても何のPMS症状改善も見られなかった」という報告もあり、こちらも有効性については分かっていないというのが現状です。

また更年期障害に対しても、2007年に韓国の延世大学校で行われた更年期症状を呈す89人の女性を対象としたプラセボ対照試験では、ブラックコホシュとセントジョンズワートを組み合わせて摂取すると更年期症状の緩和に有効であるということも報告されています。この研究報告からか日本でもブラックコホシュと組み合わせた更年期対策サプリメント・ハーブティーなどが販売されていますね。PMSに対してよりは更年期障害に対してのほうが有効性を持つ可能性が高いのではないかと考察されていますが、こちらも十分なデータが無いことが指摘されています。

日本では専門医がハーブを処方するということはありませんし、食品として販売されているものなので使用の規定などもありません。セントジョーンズワートは経口避妊薬(ピル)など医薬品との相互作用が報告されているハーブでもありますから、症状が重い場合は専門医の診断を仰ぐようにしましょう。持病や服用薬がなく、生理前の数日間だけ少し気持ちが落ち込む・不安定になるというような方であればナチュラルな緩和策として取り入れてみても良いかも知れませんが、過度な期待や過剰摂取は避けて下さい。PMS軽減を主眼とした市販のブレンドティーではチェストベリーなどと組み合わせて使われています。


痛みの軽減・胃腸の不調について

セントジョーンズワートは鎮痛・抗炎症作用があり生理痛や筋肉痛・腰痛・神経痛・頭痛など様々な痛みの軽減に役立つとする説もありますが、有効性を示す証拠が不十分であり信憑性は低いと考えられています。また民間療法でも、鎮痛剤として使用する場合は湿布のような形で、外側から利用するほうが一般的です。鎮静作用によって筋肉のこわばりを弛緩させるという説もありますが、あまり期待しないほうが良いでしょう。

同様に抗炎症作用や治癒促進作用によって胃炎の軽減や胃潰瘍予防に良いとする説についても、有効性を示す根拠はありません。気分の落ち込み・ストレス軽減効果が期待されているハーブですから、ストレス性の胃痛などに関しては軽減に繋がる可能性があるという程度のようです。

お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果

皮膚のケアに

セントジョーンワートは古代ギリシアの医師ディオスコリデスの時代から火傷や怪我の治療に用いられてきたハーブでもあります。現在でもフラボノイドや精油成分など抗菌・抗ウィルス作用を持つと考えられる成分を含むことから、外側から塗布することで抗炎症剤のような働きが期待されています。2011年にはセントジョンズワート抽出物を使用した二重盲検ランダム化比較試験において有意な抗炎症効果を示したという報告もあります。

また治癒促進効果を持つハーブとしても注目されており、2016年にトルコで行われたICUの患者の創傷ケアに対する症例報告でも、セントジョンズワート抽出物は治療に有効性があることが報告されています。これらのことから有効性についてはデータが不十分ではあるものの、伝統的に用いられてきた傷・挫傷・潰瘍・切り傷・火傷・湿疹・痔などに対してセントジョーンワートが何らかの働きかけを持つ可能性が高いという見解もあります。そのほか美白効果や保湿効果があるという説もあることから、スキンケア商品などに配合されていることもあるようですよ。

痛みの緩和に

セントジョーンワートは古くから伝統医療・民間療法の中で鎮痛効果を持つハーブとして利用されてきた歴史があります。坐骨神経痛やリウマチなどの痛みの緩和をはじめ、筋肉痙攣や筋肉痛・腰痛・捻挫など筋肉のコリや痛みにも広く利用されています。使用法としてはセントジョーンワートをオイルやアルコールに浸した浸出液をキャリアオイルに希釈してマッサージする・ハーブティーに布などを浸して湿布として利用するという2つがあります。月経痛が重い場合に下腹部のマッサージに利用することで軽減に繋がるという説もありますが、鎮痛・抗炎症作用についても作用秩序や有効性については分かっていません。

そのほか

ちょっと変わった民間療法として、セントジョーンズワートは夜尿症(おねしょ)の改善に使われています。お子様に利用する場合はチンキや浸出油をマッサージオイルに希釈してお腹(腎臓や膀胱辺り)や、お尻の少し上をマッサージしてあげると良いそう。ただしオネショ対策に関しては有効性が云々というよりも伝承の域に近いため、気持ちの問題以上の働きはないと思われます。

セントジョーンズワートの注意事項

  • 疾患がある方・投薬を受けている方は医師に相談の上で利用して下さい。
  • 妊娠・中授乳中の方、小さいお子さんへの使用は避けましょう。
  • 常用により副作用を起こす可能性があります。異変を感じた場合は使用を停止してください。
  • 飲用・塗布後は直射日光などの紫外線を避けるようにしてください。

参考元