入浴剤や化粧水を始め、湿布用としても支持される存在
仏教の経典にも記載され、日本でも奈良時代から薬用植物として利用されてきたビワ。タンニンやサポニンによる抗酸化作用や去痰鎮咳効果が期待できますし、クエン酸の働きによって疲労回復や代謝向上などにも役立つと考えられています。肌へも高い効果が期待されているためローションや入浴剤としても広く活用されています。アミグダリンを含むためがん予防に役立つと言われることもありますが、毒性の高い成分なので飲用量等には注意が必要です。
びわの葉について
植物紹介:ビワ(枇杷)
ビワといえば果物として利用されるたまご型・オレンジ色の果実が印象的です。「ビワ」と呼ぶのもこの果実の形が楽器の琵琶に似ていたことが由来なのだそう。学名に“japonica”と付きますし日本でも馴染み深い存在ですが、現在栽培され一般的に目にしているビワの原産地は中国南西部。中国でも枇杷と表記しますが、蘆橘とも呼ばれており、英名のloquatも蘆橘に由来します。
ビワは果物としてだけではなく、古くから葉は医薬品としても利用されて来た存在です。中国では3~4世紀頃に成立した『名医別録』に収載されていますから、それ以前にはすでに薬用利用が行われていたと考えられています。また仏教の経典『大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)』ではビワの木を「大薬王樹」、ビワの葉を「無憂扇」と呼び、葉から根に至るまで薬効のある植物であることが記されています。ビワと言えば“庭に枇杷の木を植えると病人が耐えない(縁起が悪い)”という迷信がありますが、これはビワの葉が薬になる=欲しがる病人が入ってくるので病気が伝染ってしまうと考えられたことが発端だとも言われています。
日本には奈良時代に仏教と共に伝えられます。奈良時代に設立された庶民救済施設・薬園“施薬院”ではビワの葉を使った治療が行われていたそうですから、伝来時に薬用植物ということも伝わっていたと考えられます。お寺でも境内にビワの木を植え、檀家や近隣住民の治療を行っていたようです。
江戸時代には暑気払いとして 枇杷葉湯(びわようとう)を飲む習慣が定着するようになります。これは枇杷の葉茶だけではなくシナモンや甘草など7つの生薬をブレンドして煎じたもので、江戸では宣伝用として路上で試飲させながら行商が行われていました。甘酒売りと同様に枇杷葉湯売りも夏の風物詩だったようです。
ちなみに果物としての栽培は江戸時代中期くらいに開始され、江戸時代末期には中国から大玉種が伝えられたことで現在私達が目にするようになったビワが流通するようになったのだとか。
現在ビワは果樹としての栽培・利用が主ですが、伝統的に生薬として利用されてきたこと・サポニンやタンニンを含むため美容にも利用できること・アミグダリンが含まれていることから制癌性が期待できる話題になったこともあり、健康茶やお灸・入浴剤用などにビワの葉も根強い人気があります。
基本データ
- 通称
- 枇杷(ビワ)
- 別名
- 枇杷葉(ビワヨウ)、Loquat(ロークワット/ロウクワット)、薬王樹(やくおうじゅ)、無憂扇(むゆうせん)、Japanese loquat、Japanese medlar
- 学名
- Eriobotrya japonica
- 科名/種類
- バラ科ビワ属/常緑高木
- 花言葉
- 治療、温和、あなたに打ち明ける、愛の記憶
- 誕生花
- 1月25日、6月27日、12月9日・20日
誕生樹は1月14日 - 使用部位
- 葉
- 代表成分
- タンニン、サポニン、青酸配糖体(アミグダリン)、精油(ピネン、カンフェンなど)、ペクチン、クエン酸
- 代表効果
- 疲労回復、血行促進、代謝向上、鎮咳、去痰、嘔吐抑制、利尿、殺菌、抗ウイルス、抗酸化、抗炎症
- こんな時に
- 疲労、夏バテ、冷え性、肩こり、腰痛、生理痛、吐き気、食欲不振、消化不良、下痢、咳、気管支炎、風邪予防、老化予防、美肌
- おすすめ利用法
- ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ、浸出油、湿布、温灸、手作り化粧品
- ハーブティーの味
- 味・香りともに淡白であっさりしているが、ほのかに甘みがある
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
びわの葉の栄養・成分・期待できる効果
ビワ茶(枇杷の葉茶)
健康な生活のサポートに
疲労回復・コリの緩和に
びわの葉には クエン酸を含むことから疲労回復に役立つと考えられています。クエン酸は人間の体内でエネルギーを作り出す代謝回路である「クエン酸回路(TCAサイクル)」において触媒のような働きを担っており、ストレスや激しい運動、長時間の肉体労働によって低下してしまったクエン酸回路の活性化に役立ちます。
そのためクエン酸は体内の新陳代謝を活発にして乳酸の蓄積を防ぐ働きがあると考えられています。疲労物質とも呼ばれる乳酸の蓄積が抑制されることで疲労回復や筋肉痛・肩こり・腰痛などの筋肉硬化の緩和に効果が期待できます。
冷え性改善・ダイエットに
クエン酸はクエン酸回路を活性化して代謝促進に役立つされるほか、体内をアルカリ性にすることでの血液サラサラ効果が期待できます。クエン酸以外にもびわの葉にはタンニンやサポニンなど抗酸化作用を持ち、血液や血管の状態を整えることで血流をサポート効果が期待できる成分が含まれています。
これらの成分が相乗して働くことで代謝向上・血行促進効果が期待できます。結果として冷え性の改善やダイエットサポートとしても役立ってくれるでしょう。血流を改善して冷えをとることから生理痛の緩和にも良いと言われています。
胃腸の調子を整える
びわの葉に含まれているクエン酸などの有機酸は消化酵素(タンパク質分解酵素ペプシン)の働きを助け、消化吸収をサポートしてくれます。また低濃度であれば胃粘膜の粘膜修復にも役立つと考えられているため、胃の不快感や吐き気・食欲不振の改善などにも効果が期待できます。
加えてびわの葉茶にはタンニンが含まれていることから、収斂作用による下痢の予防・緩和にも有効です。ただし便秘がちの方の場合は症状が悪化する可能性もありますので様子を見ながら摂取するようにしましょう。
風邪予防・咳や痰に
サポニンは気管の分泌液の分泌を促すことで肺のゴミ・異物の排出を促す働きがあると考えられています。またタンニンには収れん作用のほかヒスタミンの分泌を抑制する働きも期待されていますので、相乗して咳や痰を抑える働きがあると考えられています。お茶を飲む以外にも、うがい薬代わりに利用する・蒸気吸引するなどの方法で喉のケアに利用されています。
またサポニンはナチュラルキラー細胞を活性化することで免疫力を高める働きが、タンニンには殺菌作用がありますので、両者の持つ抗酸化作用と相乗して風邪予防にも有効とされています。風邪をひいて咳が出るときには甘草やエキナセアとブレンドして利用すると相乗効果が期待できます。
びわの葉のアミグダリンについて
びわの葉に含まれる青酸配糖体(アミグダリン)は体内で分解されることでガン細胞を攻撃すると言われていることから、枇杷葉ががん予防や抗癌に役立つとする説があります。しかしこれらの作用・効能は科学的に立証されたものではなく、米国国立がん研究所は“がん治療に効果はない”と結論づけています。
またアミグダリンは腸で分解されると猛毒であるシアン化水素(青酸)を発生し、経口摂取に関しては扱いを間違うと健康を害し最悪の場合は死につながる危険性があることから、FDA (米国食品医薬品局)は米国内で販売を禁じています。
少量であれば保護酵素によって無毒化されるため問題ないと言われていますが、用法用量を順守して使用する必要があります。特別な効果を期待して過剰に利用しないように注意してください。
びわの葉茶の作り方
びわの葉が手に入るようであれば、葉に生えている毛をこすって落として綺麗に水洗いし、風通しの良い所で乾燥させた後フライパンなどで焙煎することで自作することが出来ます(採取時期は7月~8月が良いとされる)。お茶を作るときは1~2杯に対して小さじ1程度の量を入れましょう。
ちなみに江戸時代によく飲まれていたという枇杷葉湯はびわの葉、肉桂(シナモン)、霍香、莪述、呉茱萸、木香、甘草の7品目を同量混ぜ合わせて煎じたもので、胃腸機能促進・利尿・咳や痰などの呼吸器炎症の緩和に良いと言われています。
お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果
びわの葉風呂に
びわの葉を入浴剤代わりに利用した“びわの葉湯”もまた江戸時代には夏の定番として親しまれてきた存在。びわの葉には殺菌・消炎作用が期待できるため汗疹・湿疹・かぶれ等の夏場に起こりやすい皮膚トラブルの予防・改善にも役立つとされています。タンニンやサポニンには抗酸化用もありますのでエイジングケアやアトピー性皮膚炎の症状緩和にも効果が期待されています。
その他に温浴効果・保温効果を高める働きもあるとされていますので、冷え性の改善にも効果が期待できるでしょう。エアコンで冷えてしまった時など、昔とは違う意味で現代の夏にも役立ってくれる存在と言えるかもしれません。
お庭などにびわの葉がある場合は葉を採取して裏側の毛を落とすようによく洗い、刻んだものを布袋などに入れてお湯に浮かべればびわの葉風呂を楽しむことができます。お茶用として販売されている乾燥葉を細かく砕き袋に入れたものを軽く煮だしても利用できますので、農薬や排気ガスが気になる方は茶葉用のもの・入浴剤として販売されているものを利用したほうが無難です。
スキンケアに
びわの葉にはタンニンが含まれているため収れん作用による毛穴の引き締め・皮脂分泌抑制効果、メラニン色素生成抑制による美白・皮膚保護作用などがあると考えられています。殺菌作用や抗酸化作用も期待できますので、収れん作用と合わせてニキビ予防にも効果が期待できるでしょう。
化粧水として利用する場合はチンキを作るか「びわの葉エキス」等を購入し、それを希釈する方法が一般的です。濃く煮出したお茶は殺菌作用が強いため虫刺され・かぶれ・水虫などのケアにも良いと言われています。希釈して口内炎やニキビケアなどにも活用出来ます。
サポニンには抗炎症作用が期待されていますし、アミグダリンにも血液浄化作用や痒みを抑える働きがあるとする説があります。そのためアトピー性皮膚炎の症状緩和にも利用されています。アミグダリンの働きにつては疑問も残りますが、びわの葉は抗酸化物質を含みますので症状悪化の原因となる過酸化脂質の抑制には役立つと考えられます。
化粧品原料として利用される“ビワ葉エキス”も保湿や収斂・抗菌・消炎などの目的で利用されています。そのほか抗酸化作用やコラゲナーゼ活性阻害作用・エラスターゼ活性阻害作用などがあるとされ、エイジングケア系の基礎化粧品にも利用されています。
痛み緩和に
濃い目に煮出したびわの葉茶やチンキ(薬酒)は鎮痛効果があると考えられ、湿布として患部に付けることで腰痛や神経痛を始め打撲や捻挫などの痛み止めとして利用されています。生葉を直接貼り付ける方法もありますが、こちらは葉がすぐに乾燥してしまいますのでオイルやラップなどで保護すると良いそう。
そのほか温灸やびわの葉を炙って全身を撫でる金地院療法なども行われています。
ビワの葉の注意事項
- 毒性を持つ成分である青酸配糖体(アミグダミン)を含むため、多量飲用・長期飲用はできません。
- 肌へ使用する場合は皮膚刺激により炎症を起こす可能性があります。使い始めは低濃度に希釈したものを利用し、パッチテストをしっかりと行ってください。