ディル/イノンド
ハーブティーと期待される効果効能紹介

「鎮める」が語源とされる、穏やかなリラックスティー

ディルもしくはスペイン語由来のイノンドと呼ばれるセリ科植物は、石器時代から人類が食用としていたとされる長い歴史をもつハーブ。香辛料としてはキャラウェイの代用品というイメージがありますが、古くは鎮静作用や消化促進作用を持つハーブとして利用されていました。イノンドティーは作用が穏やかなため、少量であれば赤ちゃんの夜泣き対策などに用いられることもあったのだとか。現在でも精油成分の働きからリラックスを助けたり、胃腸の調子を整えてくれるハーブとして親しまれていますよ。

画像:ディル(イノンド)

 

ディル/イノンドについて

植物紹介:ディル/イノンド

ディルはセリ科に属し、同じセリ科のフェンネルによく似た形状をしていますが、フェンネルの様な甘さはありません。同じくセリ科のキャラウェイの方が香りは近く、ヨーロッパではキャラウェイの代用品として用いられることもあります。日本でもキャラウェイとディルはと同じ「姫茴香」という別名が付けられており、混同されることもあるため注意が必要です。

日本では一般的に用いられている・親しみがあるとは言えない存在ですが、ヨーロッパや中近東などでは料理用ハーブとして盛んに使われています。葉(ディルウィード)は魚介料理・サラダ・スープ・ソースなどに香草として加えられ、より香りや刺激の強い種子(ディルシード/厳密には果実部分)はカレー料理・ビネガー・ケーキ・パンなどにスパイスとして利用されます。シード・ウィード共にピクルスやドレッシングによく使われており、中でもキュウリとの相性が良く「ディルピクルス」といえばディルの風味をきかせたきゅうりのピクルスを指すほど。

様々な料理に活用されるディルですが、歴史的に見て人との関わりが最も古い香草・薬草の一つとも言われています。石器時代の遺跡からも発掘されており、紀元前3000年頃にはヨーロッパやエジプトにも伝えられていた考えられています。古代エジプトではコリアンダーなどと混ぜて頭痛薬として、古代ギリシアではしゃっくりを止めるのにも用いられたと伝えられています。紀元前のうちには各地で栽培も行われていましたが、税として収めていたとする記述もあり富裕層が用いていたと考えられます。時代が下り中世になるとディルは広く普及するようになり、食用ハーブとしての利用や「むずがる幼児を落ち着ける・夜泣きを鎮める」などの民間療法も広まっていきます。そのほかに黒魔術を防ぐ効果もあると信じられていたそう。

日本には江戸時代にスペイン人によって伝えられたと言われ、和名「イノンド」はスペイン語の呼称eneldo(イネルド))が訛ったものと考えられています。当時は胃腸トラブルに役立つ生薬としての利用が主だったようです。ちなみに英名のディル(dill)は10世紀にイギリスの学者・聖職者であったアルフリックが使い始めたと言われています。語源は古代ノルウェー語またはスカンジナビア語で「鎮める/なだめる/穏やかにする」などの意味を持つ”dilla(ジーラ)”という言葉と言われており、生薬名として用いられる時蘿(ジラ)もこのディルの音写です。

基本データ

通称
ディル(Dill)
別名
葉部:ディルウィード(Dill weed)、種子:ディルシード(Dill seed)
イノンド(時蘿・伊乃牟止)、時蘿子(ジラシ)、土茴香(トゥホイシャン)
学名
Anethum graveolens
科名/種類
セリ科イノンド属/一年草
花言葉
知恵
誕生花
12月26日
使用部位
種子、葉
代表成分
精油(カルボン、リモネン、フェランドレン、ジラピオール)、キサントン配糖体(ジラノサイト)
代表効果
鎮静、催眠、利尿、胃腸機能向上、駆風、乳分泌促進
こんな時に
ストレスの緩和、不眠、胃もたれ、消化不良、腹痛、腹部膨満感(腸内ガスによるお腹のハリ)、口臭予防
おすすめ利用法
ハーブティー、ハーバルバス(部分よく)、ハーブチンキ、手作り化粧品、料理用ハーブ(香辛料)、精油
ハーブティーの味
清涼感のある香りを持ち、口に含むとやや舌に刺激がある
カフェインの有無
ノンカフェイン

ディル/イノンドの栄養・成分・期待できる効果

ディルティー(イノンド茶)

精神面への働き

イライラ・興奮を鎮める

ディルには精油成分のリモネン・カルボンが含まれています。リモネンは体内で吸収されると脳内でリラックス時に出るα波が放出されることが報告されていますし、カルボンにも鎮静作用があると言われています。

精油成分の複合効果によりディルは高い鎮静作用を持ち、イライラ・興奮・ストレスによる神経過敏など神経の昂ぶりを鎮めて、気持ちを穏やかリラックスさせる働きがあると考えられています。穏やかな鎮静剤として古くから利用されてきたハーブでもあります。


不眠気味の時に

リラックス効果を持つディルは不眠の改善にも役立ちます。特にハーブティーとして浸出したものは作用が穏やかですので、古くから赤ちゃんの夜泣きや不眠症に用いられてきました。小さいお子様に飲ませる場合にはあまり濃く抽出せず、ハチミツを加えてあげると良いそうです。


消化器系への働き

消化吸収のサポートに

ディルに含まれている精油成分のカルボンには胆汁分泌促進作用があるため、消化酵素の働きを助けることで消化器系の機能をサポートしてくれます。漢方でも時蘿子は脾腎を温めて健胃・理気の効能があるとされ、主に芳香性健胃薬・駆風薬として用いられています。

ディルティーはさっぱりとした爽快感がありますから、胃もたれ気味のときはパセリなど同じくさっぱり系、食欲不振気味の時にはバジルなどスパイシー系とブレンドして食前に飲むのもおすすめです。


腹部膨満感(腸内ガス)に

ディルは胃腸の調子を整える働きに加え、腸内ガスを排出する作用にも優れいると言われています。お腹が張って苦しい時にティーとして飲用するほか、食後に飲むことで消化を助けたり、ガス発生を抑制する働きが期待出来ます。


口臭予防に

ディルシードは口臭予防にも用いられています。食後にシングルティーで飲んだり、そのまま種子を噛むと良いと言われていますが、カルダモンキャラウェイなどとブレンドするとより高い効果が期待できるでしょう。

消化吸収を助ける働きは勿論ですが、マウスによる実験ではディルシード抽出物に胃粘膜保護作用があることも報告されています。胃粘膜保護作用と精神面への鎮静効果とが相乗し、暴飲暴食やストレスなど胃粘膜が荒れていることから起こる口臭予防にも役立つと考えられています。


そのほか期待される作用

頭痛・呼吸器系の不調に

今から5000年以上も昔、古代エジプトで既に頭痛薬として利用されていたと言われるディル。現在でも鎮静作用などから頭痛の改善に有効と考えられています。また痙攣を抑える働きがあることから、咳・気管支炎・喘息などの緩和にも用いられます。飲むだけではなく、カップに入れたティーの湯気(蒸気)を吸引するのも良いでしょう。


女性特有の不調・悩みに

ディルは催乳作用(母乳分泌を促す働き)があると言われています。
そのほかに通経作用があるとする説もあります。マウスを使った実験でも月経サイクルの調整に対しての有用性が報告されており、無月経や月経不順の改善に効果が期待されているようです。また鎮痙作用があることから生理痛の緩和にも有効であると考えられています。


むくみ・循環器サポートに

ディルには利尿作用があることから、むくみの改善や腎臓、膀胱など循環器機能サポートとしても効果が期待されています。

ディル・ウォーターについて

コップ一杯(≒250cc)の熱湯に軽く潰したディルシード小さじ1杯を加え、二時間ほどおいたあと濾した「ディル・ウォーター」は古くから小児の腹痛止め水薬としても用いられてきました。乳幼児の場合は一回に小さじ1杯を飲ませると腹痛・消化不良・しゃっくり止め・むずがる時などに良いと言われています。
大人が飲む場合はディルシードの量を大さじ1杯程度に増やしてください。

お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果

ハーブバスに

生葉・ドライハーブ・精油のいずれかを浴槽に入れることで、冷え・むくみ・静脈瘤・セルライトなどのケアに有効とされています。またディルを煮出し手浴をすると、栄養を与えて爪を強化してくれます。偏頭痛にも良いと言われています。


ハーブ枕に

ヨーロッパではディルシードを袋に入れたものを、綿の中もしくは枕カバーの中に入れ安眠枕としても利用しているそうです。安眠用のハーブ枕といえばラベンダーカモミールなどフローラルな香りのものが多いですが、ディルの場合は清涼感のある香りですのでスッキリ系の香りがお好きな方は試してみてください。ディルウィード(乾燥葉)は香りが抜けやすいのでシードの方がおすすめです。


ディル/イノンド精油に期待される作用

精油の経口摂取(飲用など)は出来ません。また、ディル/イノンドの精油は皮膚刺激が強いためマッサージやスキンケアなど皮膚へ直接付けることは控えたほうが無難です。

精油の場合もディルシードとディルウィードの2つに大きく分かれます。一般的にはシードの方が多く用いられています。ウィードの方がカルボンなどケトン類の含有が低いとされていますが、どちらもケトン類を含み毒性・刺激性などがあるので多量使用は控えるようにしましょう。ディルシードの方は軽さ・フレッシュさのあるスペアミントに似た香り、ディルウィードは甘さ・スパイシーさのあるナツメグなどに近い香りで、シードよりも強い芳香を持ちます。

心への作用

リモネンやd-カルボンなど鎮静作用を持つ成分が主成分のため、イライラ・怒り・ショック・ストレスなど精神的な興奮状態や神経疲労の緩和に有効とされています。ハーブティー同様に不眠対策としても利用されます。

リラックス効果以外にd-カルボンには中枢神経を刺激することで覚醒・リフレッシュ効果をもたらすとも考えられています。抑圧された気持ちを開放したり、やる気や明るさを取り戻すのにも役立ってくれるでしょう。気持ちのリセットに役立つ精油と言えるでしょう。


体への作用

ディル精油もティー同様に消化器系の働きかけに優れているとされ、特に腸内ガスによるお腹のハリや便秘の改善に有効とされています。消化不良のときや胃腸の働きが低下していると感じる時にも適しています。

そのほか鎮静作用と抗痙攣作用から頭痛や生理痛、喘息・気管支炎などの緩和にも役立ちます。抗菌・消毒・粘液溶解・去痰作用などもありますので、咳・痰・鼻水・鼻詰まりなど呼吸器系の不快感の改善にも効果が期待できるでしょう。

ディル/イノンドの注意事項

    ティー・スパイスとしての場合は、適切な摂取であれば特に問題はないとされています。

  • 妊娠中の方や小さいお子様へ利用の場合は量や濃さに注意が必要です。
  • 精油の場合は、妊娠中・授乳中の方、幼児への使用は避けてください。