【ホップ】
原料植物、ハーブティーに期待される効果効能

ストレス対策&女性のサポートにも期待

ビールの風味付けにも欠かせないホップ。実はビール造りが広がるよりもずっと前から薬用に用いられてきた歴史のあるハーブでもあります。アーユルヴェーダや漢方でも生薬として扱われており、現在でも薬理作用について世界中で研究が行われています。高い鎮静効果によってストレス対策や不眠軽減に役立つと考えられるほか、エストロゲン様作用が期待できることと合わせて更年期障害やPMS(月経前症候群)など女性領域のサポートにも取り入れられていますよ。近年は抗肥満作用や花粉症への有効性も報告され、さらに注目が寄せられています。

ホップのイメージ画像

ホップとは

植物紹介:ホップ

ビールの持つ独特の香り・苦味の元としてもお馴染みのホップ。ビールの主原料として麦・ホップが必要だという事はご存知の方が多いものの、ホップとは何かと聞かれてもビール以外のものが思いつかない方も珍しくはないのではないでしょうか。ビールのパッケージに描かれているのは大半が麦ですし。そんなホップは植物として見るとアサ科カラハナソウ属に分類される、雌雄異株の蔓性植物。ビール作りに“ホップ”として使用されているのは雌株にだけつく毬花と呼ばれる松ぼっくりのような形の部分。この毬花は受精してしまうと苦味や香りが劣るため、日本では受精しないように雄株を排除して未受精の雌株ホップが量産できる体制での栽培が主流となっています。

ホップの学名はHumulus lupulusで、更に5つの変種に分けられます。ビールに使用されているホップはHumulus lupulus var. lupulusという種類で、基本種扱いされているのもこちら。それ以外の変種としては日本を含むアジア圏に自生しているカラハナソウ(Humulus lupulus var. cordifolius)などがありますし、日本にはホップと同属種で外見も似ているカナムグラ(Humulus japonicus)もあります。ビール作りに使われているホップは日本国内だと北海道の一部に自生している程度で、本州以南で見られるのは基本的にカラハナソウもしくはカナムグラです。ホップの原産地については断定されておらず、Humulus属全体の原産地は中国、ホップが確立したのは西アジア・コーカサス地域ではないかという説が有力視されています。原産地からスラブ民族によって西ヨーロッパやエジプトへもホップは伝えられ、紀元前のうちには古代エジプトでも使用されていたと考えられています。

といっても当時からビールを作っていたのかは定かではなく、古代エジプトでホップは生薬・ハーブとしての利用が主だったそう。中世ヨーロッパのハーブ辞典では鎮静と育毛効果についての記述が残っており、インド伝承医学アーユルヴェーダや中国医学でもホップを不眠などに対する生薬として活用しています。実は現在もホップはビール製造だけではなくハーブとして活用されている植物。月経関係のトラブルや更年期障害などに役立つことから「女性のためのハーブ」と称されることもありますし、伝統的に鎮静作用や安眠効果を持つものとして扱われてきました。ドイツでは薬用植物を医薬品として利用する場合の効果・安全性の評価委員会「コミッションE」でも条件を満たしたホップはハーブ製剤として不安や不眠への利用が認められています。また、近年は肥満抑制効果や生活習慣病予防効果・花粉症軽減効果を持つ可能性も報告されたことで、現在人のサポーターとして注目されているハーブでもありますよ。

ちなみに、気になるホップがビールに使われ始めた時期については紀元前8,000年説から9世紀以降という説まで様々。新バビロニア帝国では野生種ホップを利用しビールを作っていたという見解もありますが、確証と言えるような記録はないため仮説の域を出ていません。ビールにホップが使用された記録としては12世紀にドイツの女子修道院長であったヒルデガルト・フォン・ビンゲンが紹介されます。彼女の著書『自然学(Physica)』の中でホップについて“苦味の結果として、飲み物の腐敗を若干抑える”や“酒飲み者の胃を一掃し、心(胸)を明るく楽しいものにする”との記述があるそう。12世紀頃にはジュニパーベリーヒースなどのハーブをブレンドした“グルートビール”が主流でしたが、風味や日持ちの良さ15世紀頃にはホップビールの方が好まれるようになっていきました。現在エールは上面発酵の麦酒を指す言葉ですが、16世紀頃にはホップを用いたもの=ビール・他のハーブで風味づけしたものはエールと区分されていました。

基本データ

通称
ホップ(hops)
別名
西洋唐花草(セイヨウカラハナソウ)、Houblon(オブロン)
学名
Humulus lupulus
科名/種類
アサ科カラハナソウ属/ツル性多年草
花言葉
希望、天真爛漫、信じる心、軽快
誕生花
2月15日、10月4日、10月28日など
使用部位
花(毯果)
代表成分
苦味質(バレリアン酸、フムロン、イソフムロン、ルプロン)、精油(ミルセン、カリオフィレン、ファルネセンなど)、フラボノイド、タンニン、フィトステロール
代表効果
鎮静、鎮痛、催眠、ホルモン様(エストロゲン様)、健胃、消化促進、利尿、抗肥満、抗酸化、抗菌
こんな時に
ストレス、神経疲労、不眠、不安、緊張、イライラ、PMS(月経前症候群)、更年期障害、生理痛、月経不順、肩こり、頭痛、消化不良、鼓脹、むくみ、ダイエット、アンチエイジング、生活習慣病予防、花粉症軽減
おすすめ利用法
ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ
ハーブティーの味
ビールとも共通点のあるすっきりとした苦味、独特の芳香がある
カフェインの有無
ノンカフェイン

ホップの成分と作用

ホップティーに期待される効果

精神面でのサポートに

ストレス・不安軽減に

ホップは鎮静・リラックス効果が期待できるハーブとして、伝統医学の中では鎮静剤のような感覚で不安や緊張の軽減のために用いられてきました。こうした働きを持つホップの生物活性化合物の同定についてはまだ研究段階のようですが、苦味物質類のα酸(フムロン類)やβ酸(ルプロン)類に何らかの働きがあると考えられています。現在の研究でもホップ抽出物が鎮静作用を発揮したという報告がありますし、ホップ抽出物に脳内のGABA受容体を調節する可能性を示唆した実験報告もあります。このためホップはストレスを感じているときや落ち着きがないとき、イライラ・興奮・神経過敏などの軽減サポートが期待され、ハーブティーやサプリメントなどの健康補助食品類にも使用されています。

また、ホップの鎮静作用はストレスや緊張・不安などの軽減だけではなく、頭痛や肩こり・動悸などストレスに起因する不調全般の緩和に繋がる可能性もあります。こちらは鎮静作用によって神経の緊張に起因する痛み、筋肉のこわばりの軽減に繋がるため。神経を宥めることで様々な働きが期待されているホップですが、鎮静作用が極めて強いことから鬱症状の場合は症状を悪化させる可能性があるという指摘もあります。気分の落ち込みや無気力状態の場合はセントジョーンズワートバーベインバレリアンローズなどの方が向いていると考えられますし、不調が重い・長く続いている場合は医師の診断を受けるようにしましょう。ホップは心身の健康をサポートしてくれる食品であり、不調や疾患を快癒させる医薬品ではありません。


良質の睡眠サポートに

苦味があり独特なホップではありますが、鎮静作用によって神経を落ち着かせることでリラックス状態を作り出し、睡眠状態へ入りやすくする手助けも期待されています。2004年『Planta Medica』にはバレリアン/ホップエキスを組み合わせた錠剤の投与で、カフェインによって誘発された覚醒を減少もしくは阻害したというドイツの実験報告が掲載されています。この論文ではアデノシンを介してホップは睡眠誘発作用を発揮するのではないかという見解も掲載されています。睡眠に対するホップの作用については他にも研究が行われており、ホップはストレス・心因性の不眠を軽減するだけではなく、眠気を誘う作用(催眠作用)も併せ持つと考えられています。

睡眠時間を延長する作用があるという説もあり、欧米でホップは “good night flowers”と称されることもあるそう。不安や心配事で頭が冴えてしまって眠りにつきにくいという方はもちろんのこと、眠りが浅く、夜間に何度も起きてしまうタイプの方のサポートにも取り入れられているそうですよ。こちらについても有効性としては研究段階と言えますが、最近寝付きが良くないと感じていたり・疲れすぎると眠れなくなる方がサポートとして取り入れるには良いかもしれません。実験で使用されたバレリアンだけではなく、より穏やかさを求めるのであればカモミールとのブレンドもお勧めです。

女性ホルモンとの関わりについて

更年期障害や骨粗鬆症予防に

ホップは様々な機能性を持つ植物として研究されているハーブですが、その中でも“8-プレニルナリンゲニン(ソホラフラバノンB)”というフィトエストロゲンを含むことが注目されています。フィトエストロゲンは植物性ホルモン(エストロゲン)とも呼ばれる、女性ホルモンのエストロゲンに似た構造・作用を持つ成分。ホップに含まれている8-プレニルナリンゲニンは「これまでに単離された最も強力な植物性エストロゲンの1つ」とも称される物質であり、エストロゲン補助剤として女性領域での不調改善に効果が期待されています。

8-プレニルナリンゲニンなどのフィトエストロゲンはエストロゲン受容体に結合することで、エストロゲンと同じような作用を発揮すると考えられています。このためエストロゲン量が減少している閉経前後の女性の場合であれば、エストロゲンの代替え品として働くことでホルモン分泌量の急激な低下によって起こる更年期障害の軽減が期待できます。2006年に『Journal of Endocrinology』に発表された卵巣摘出ラットを使った研究では、ホップから抽出されたフィトエストロゲン(8-プレニルナリンゲニン)がほてりを含む更年期障害に関連する不快感軽減に有益な効果をもたらした事も示されています。

このためホップはホットフラッシュや寝汗などホルモン変動と関連する更年期障害の軽減に役立つハーブとして、ブレンドティーやサプリメントなどにも取り入れられています。ホップには優れた鎮静作用も期待されていますから、イライラ・ヒステリー・不安など精神的不快症状の軽減に繋がる可能性もあるでしょう。また、閉経に伴うエストロゲンの減少によって発症リスクが高まる骨粗鬆症の予防にも役立つと考えられています。


PMS(月経前症候群)や生理痛にも

ホップには女性ホルモンのエストロゲンをサポートする働きが期待されています。エストロゲンの不足は更年期障害ではなく、月経リズムの乱れやPMS(月経前症候群)など月のものに関わる様々な女性トラブルを引き起こす要因ともなります。しかし、月経トラブルはエストロゲン不足だけではなく、エストロゲン過剰(プロゲステロン不足)による場合もあります。

エストロゲン様作用を持つホップの摂取については諸説ありますが、フィトエストロゲンはエストロゲンと競争してエストロゲン受容体に入り込むという性質があります。人本来のエストロゲンよりもフィトエストロゲンの作用は弱いため、エストロゲン受容体のいくつかを植物性エストロゲンが埋めることで全体的なエストロゲン作用を弱めるとの見解が多くなっています。ホップの8-プレニルナリンゲニンなどのフィトエストロゲンの摂取はエストロゲンの極端な不足もしくは過剰状態を緩和し、ホルモンバランスを整えることに繋がる可能性もあると考えられるわけです。

このことからホップは更年期障害だけではなく、PMS(月経前症候群)・月経不順・生理痛など若い女性の不調軽減にも効果が期待されています。特にPMSについては更年期障害と同じく鎮静作用と合わせて、生理前のイライラや緊張・不安・不眠・肩こりなどの諸症状緩和に役立つ可能性もあるでしょう。更年期障害の軽減であれば薬用人参ブラックコホシュ、PMSの緩和であればラズベリーリーフジンジャーなどと組み合わせて使用されることが多いようです。


男性の利用について

ホップは女性ホルモン様作用があることから、男性の薄毛予防に役立つという説もあります。しかし、その一方で摂取すると精力減退を起こす可能性があるという指摘もあります。どちらの説についても調べた限り根拠と言えるような実験報告などは発見できませんでしたし、抽出物(サプリメントなど)ではなくハーブティーとして摂取する場合は8-プレニルナリンゲニンの摂取量は微量であると考えられます。一日数杯程度の摂取であればさほど心配はないと思われますが、気になる方は飲みすぎに注意しましょう。お子さんの摂取は控えたほうが無難です。

そのほか期待される作用

消化器系のサポートに

ホップは健胃作用のある生薬としても伝統的に使用されてきたハーブ。消化不良や食欲不振・胸焼け・お腹のハリの改善に利用されてきた歴史がありますし、動物実験では酸度を変えずに胃酸分泌を高めたこと・筋肉を弛緩させて鎮痙作用を発揮したことも観測されています。胆汁分泌促進作用や肝障害に対して保護作用を示したとの報告もあることから、内臓機能を高めて消化をサポートする働きを持つ可能性があると考えられています。直接的に鎮痙作用によって痙攣性の痛みを抑えるだけではなく、ストレス対策としても期待できますから過敏性腸症候群など神経性の下痢・便秘や腹痛、神経性胃炎などストレス性の胃腸トラブル予防にも役立ってくれるでしょう。


むくみ予防・ダイエットに

2013年の『Phytochemistry』にはホップ由来のフラボノイド“キサントフモール(Xanthohumol)”の投与でラットの体重と空腹時血糖が低下したというオレゴン州立大学の研究が掲載されています。日本でも2015年には東京大学から“キサントフモールが脂質合成転写因子SREBPの活性化を抑制し、肥満や脂肪肝を改善する”という研究成果が発表されています。東京大学の実験でもキサントフモール摂取マウスは体重、体脂肪量、肝臓重量、肝臓中脂質などに有意な減少が見られたそう。

こうした実験結果からキサントフモールは機能性食品への応用が期待されていますし、キサントフモールを含むホップについてもメタボリックシンドローム予防やダイエットをサポートしてくれるのではないかと考えられています。加えてホップの苦味成分であるクエルシトリンやフムロン、ルプロンなどには利尿作用も期待できることから、むくみ対策にも役立つと考えられていますよ。ビールと比べるとホップティーは脱水などを起こす危険性が少ない穏やかな作用。有効性については未解明な部分が多いですが、ノンアルコールで依存性も低いのでダイエットのお供に取り入れてみても良いかもしれません。


アンチエイジング・生活習慣病予防に

ホップにはキサントフモール以外にも、ケルセチンやプロアントシアニジンなどのフラボノイド系ポリフェノール、 テルペノイドなど、抗酸化作用を持つ成分が含まれています。このためホップは優れた抗酸化物質補給源=アンチエイジングハーブとしても注目されています。体内の酸化を抑制することで代謝低下や免疫機能低下の予防、若々しさを保持する手助けも期待できできるでしょう。生活習慣病や認知症のリスク低減、肌細胞の酸化を抑えることでシワやシミなどを予防する美肌効果など様々なメリットがあると考えられています。

また、ホップは抗酸化物質の補給源としてだけではなく、より直接的に生活習慣病をはじめとする疾患予防をサポートする可能性があることも報告されています。キサントフモールは肥満や脂肪肝予防以外に、インスリン感受性の改善・抗血小板作用によって心血管疾患の予防と治療に役立つ可能性が示唆された報告もあります。ホップ全体としても悪玉(LDL)コレステロール値・中性脂肪値の低下作用などが報告されていますから、健康が気になる中高年の方のサポートに役立ってくれる可能性もありそうですね。


認知症予防やアレルギー対策にも…?

2006年にサッポロビールが行った研究で、花粉症患者にホップ抽出物を含む飲料を摂取したもらったところ鼻づまりなどの症状が緩和した=花粉症症状の軽減機能がある可能性が報告されています。また2012年にはホップに含まれる苦味成分「フムロン」に急性呼吸器感染症を引き起こすRSウイルスの増加を抑制する働きがあり肺炎や気管支炎の予防や炎症緩和に効果が期待できることが、2014年にはアルツハイマー型認知症の予防効果を持つ可能性も報告されています。

ただし研究段階の話ではありますし、抽出物ではなく通常量のホップティー摂取による効果は分かっていません。また、ホップはビールの風味付けとして使われていますが、生成過程では取り除かれてしまうため、ビールを飲んでも効果はないようです。

お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果

ストレス・不眠対策に

ホップの持つ鎮静・リラックス作用は芳香成分によってもたらされる部分もあります、このためホップをバスハーブとして使用することでも、心身の緊張から起こる頭痛・肩こり・腹痛・不眠などの緩和に役立つと考えられています。抗酸化物質が豊富なことから美肌効果があるという説もありますよ、また、乾燥ホップを枕の詰め物として利用したハーブピローを使用することで寝付き・睡眠の質が改善される可能性もあります。苦味のある香りが気になる場合はラベンダーカモミールと合わせて利用すると香りが良くなるでしょう。日本での流通量は多くありませんが、欧米では精油を活用するという方もいらっしゃるようです。

ホップの注意事項

  • 妊娠中の方は使用できません。
  • 授乳中の方・小さいお子さんの使用も控えたほうが確実です。
  • エストロゲン依存性疾患のある方やエストロゲン補充療法を受けている方は使用出来ません。
  • うつ病の傾向がある方、医薬品を服用している方は医師に確認のうえ利用しましょう。

参考元