フレーバーとしても重宝するが、抗肥満説には注意
甘酸っぱいような、柑橘系特有の爽やかで優しい香りが特徵のオレンジピール。ブレンドティーを作る際のフレーバーとしても重宝する存在です。ポリフェノールを含むことから抗酸化作用や血液循環のサポートに、リモネンの働きからリラックス効果なども期待されていますよ。ただし抗肥満物質とも囁かれるビターオレンジ由来のシネフリンに健康被害も懸念されるため注意が必要。
Contents
オレンジピールとは
植物紹介:オレンジ
果物として私達にもお馴染みのオレンジ。ミカンのように手で剥けないのが何点ですが、柑橘系特有の爽やかな香りと濃厚な甘酸っぱい味わいが魅力の果物です。香りの良さから様々な「オレンジの香り」が付けられた商品もありますし、果皮を乾燥したものは紅茶やハーブティーのフレーバーとしても定番と言えます。
私達が普段果物として食べているオレンジはミカン科ミカン属のうち学名Cilrus sinensisという種に含まれる品種。ですが、オレンジという言葉はそれ以外のミカン属の植物・その果実にも使われています。西洋で“オレンジピール”と呼ばれハーブ・民間薬として使用されているものは、生食用としては苦味が強いビターオレンジ(学名:Citrus aurantium/和名ダイダイ)がオーソドックス。ただし呼び名について厳密な決まりがあるわけではないので、お茶のフレーバーとしてはスイートオレンジの皮のみが使われている・スイートオレンジとビターオレンジの果皮を混ぜたものも存在しています。
オレンジの皮と言うと身近な生薬とも称される七味唐辛子の原料の一つ“陳皮”、もしくはそれを煮出して飲む健康茶“陳皮茶”をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。中国での陳皮は基本的にマンダリンオレンジ(学名:Citrus reticulataの果皮を乾燥したもの。日本薬局方では陳皮をマンダリンオレンジ)もしくは温州蜜柑(ウンシュウミカン/学名:Citrus unshiu)と定義されているので、お馴染みの冬みかんの皮が使われている事もあります。大まかに表現すれば全てオレンジピール(ミカン属果実の果皮)ではありますが、西洋で言われるオレンジピールとは原料が違っているんですね。
そんなビターオレンジのうち、ハーブティーとして使われるのは花部分のオレンジフラワー(オレンジブロッサム)と果皮部分のオレンジピールの2つが主。オレンジフラワーは爽やかさと甘めのフローラルさの入り混じった「花のお茶」という印象が強く、オレンジピールはオレンジのスッキリとした香りが特徴的です。果物の印象もあるので香りからは酸味を想像してしまいますが、オレンジピールは酸味がなく渋み・苦味が強い食材。オレンジピールを単体で煮出しても味自体はそう濃くないため、浸出方法によってはオレンジの香り付きの白湯・やや苦味がある程度という場合もあります。苦みが苦手な場合はオレンジピールをメインにせず、フレーバー感覚で紅茶やコーヒーに加えたり、ブレンドティーの原料の一つとして使用するのが無難ではあります。
ちなみにオレンジ類の原種は中国からインドにかけての地域に自生していたと推測されており、スイートオレンジもビターオレンジもブンタン(文旦)とマンダリンオレンジが祖先と考えられています。原産地周辺である中国やインドでは古代からオレンジ類を生薬として使用してきたと伝えられています。伝統医薬に関しての科学的な研究が進められる中で人体に対して有益な働きかけを保つ可能性も示唆されていますが、現時点では人に対しての有効性は認められていないものが大半。加えてアメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)は食品に含まれる量であれば問題ないとしたうえで「ビターオレンジのみを含む栄養補助食品の摂取による悪影響」の報告があることも紹介しています。基本的には嗜好品と考えましょう。
基本データ
- 通称
- オレンジピール(Orange Peel)
- 別名
- ダイダイ(橙・代々)、サワーオレンジ(sour orange)、セリビアオレンジ(Seville orange)、マーマレードオレンジ(marmalade orange)など
- 学名
- Citrus aurantium(ビターオレンジ)
Cilrus sinensis(スイートオレンジ) - 科名/種類
- ミカン科ミカン属/常緑小高木
- 花言葉
- 優しさ、美しさ、大人しさ
- 誕生花
- 4月24日、9月7日・9月24日など
- 使用部位
- 果皮
- 代表成分
- フラボノイド類(ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、ナリンギンなど)、アルカロイド類(p-シネフリン)、精油成分(d-リモネン、リナロール、フロクマリン類など)、ビタミン類、ペクチン
- 代表効果
- 抗酸化、血圧降下、抗コレステロール、健胃、消化促進、血行促進、抗菌、抗炎症、鎮静
- こんな時に
- アンチイジング、生活習慣病(高血圧・高脂血症・動脈硬化など)予防、胃もたれ、消化不良、風邪予防、ストレス、気持ちの落ち込み、不安、不眠
- おすすめ利用法
- 食用、ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ、湿布、スチーム吸引、手作り化粧品、精油
- ハーブティーの味
- 甘酸っぱいオレンジの香り、味は薄めで微かに甘酸っぱ苦い
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
オレンジピールの成分と作用
オレンジピールティーに期待される効果
健康維持のサポートに
抗酸化物質の補給源として
オレンジの果肉と比較して果皮(オレンジピール)が優れている点として、ビタミンCやポリフェノールなどの植物化合物が豊富に含まれていることが挙げられます。韓国の大学で行われたオレンジ果肉および果皮の抽出方法による抗酸化活性についての研究では、果皮の総ポリフェノール含有量と活性が果肉よりも高かった事が2014年12月の『Preventive Nutrition and Food Science』に発表されています。柑橘系の特徴成分とも言えるヘスペリジン含有量も果皮のほうが多いことが分かっており、イヨカンの場合であれば果皮は果肉の4倍近くのヘスペリジンを含むという発表もなされています[1]。
そのほかポリメトキシフラボノイド類やビタミンCなども含まれているため、オレンジピールティーの摂取は抗酸化物質の補給にも繋がるでしょう。活性酸素/フリーラジカルは体内で過剰に増加すると細胞を傷つけ、老化促進や病気の発症リスクを高めることが指摘されています。このため活性酸素/フリーラジカルによる酸化作用を抑制する抗酸化物質の補給により、若々しさや健康を保つ手助けが期待されています。また、リモネンなどの精油成分もオレンジピール(果皮にある油胞部分)に多く含まれています。こうした成分が多く含まれていることが、オレンジやみかんの果肉ではなく果皮部分が各国でハーブ・生薬として使われてきた一因なのかもしれません。
高血圧・心血管疾患予防に
柑橘類に多く見られるポリフェノールの一つヘスペリジンは抗酸化作用を持つだけではなく、血液循環をサポートする働きも期待されている成分です。1995年にはイタリアで行われた動物実験で血漿中のHDL(善玉)コレステロール増加・LDL(悪玉)コレステロールとトリグリセリドの低下が見られたことが報告され、血中脂質やコレステロール改善を目的とした健康食品等にも配合されています。
また、高血圧モデルラットを使用しての実験で血圧降下作用が見られたとの報告があり、2010年には軽度肥満の中年男性を対象にしたオレンジジュースの摂取実験でも拡張期血圧(DBP)の減少・食後の微小血管内皮反応性の改善が見られたことが『The American Journal of Clinical Nutrition』に報告されています[2]。この実験では有益な作用を発揮した成分としてヘスペリジンが示されています。こうした発表からヘスペリジンは抗酸化作用+血圧低下+血中のLDLコレステロールや中性脂肪を低下させる働きが示唆されている成分として注目され、高血圧、動脈硬化などの生活習慣病に役立つのではないかと期待されています。
加えてビターオレンジの果皮に含まれているフラボノイドの一種で苦味成分のナリンギン(naringin)もマウスを使った実験では血漿脂質の減少・抗動脈硬化作用を持つ可能性が報告されています。このためヘスペリジンやナリンギンを含むオレンジピールも血流トラブルの予防に注目されています。ただし水に溶けにくいという性質があるためハーブティーとして使用した場合にどの程度補給できるかは定かではなく、ご紹介した作用も可能性段階というのが現状ではあります。医薬品のような効果を得られるわけというわけではありませんから、検査で基準値をオーバーしている方は医師の治療・指導を仰ぐようにしましょう。
胃腸機能サポートに
オレンジピールは伝統医療の中で消化器系の機能を整える目的で使用されてきました。オレンジピールの有効性については認められていませんが、オレンジの香りを構成する精油成分のリモネンは胃保護作用を持つと考えられ胃炎や胃疾患の治療に使用されている成分。ラットを使った実験でも粘液産生の増加や抗炎症作用が見られたことが報告されています[3]。唾液分泌を促して食欲を高める・消化を整えるという説もあります。
そのほかオレンジピールにはペクチンをはじめとした食物繊維類も含まれているため、食物繊維の補給から便通を良くしたり腸内環境を整える働きも期待できるでしょう。爽やかな柑橘系の香りにはリラックス&リフレッシュ効果も期待できることから、ストレス性の腹痛や食欲不振・過敏性腸症候群などのサポートにも役立ってくれるかもしれません。同じく消化器系サポートに良いとされるカモミールやレモングラスなどとブレンドして使われることもありますよ。
冷え軽減・風邪予防に
オレンジピールに含まれているヘスペリジンは冷え対策のサプリメントなどでも名前を見かけることのある存在。これはヘスペリジンに血流改善効果があり、手足など末梢への血流を良くすることで温度を維持する=末端冷え性の軽減に役立つことがヒト試験で確認されているためです[4]。成分を抽出したサプリメントとは異なること・ヘスペリジンは水に溶けにくいことからオレンジピールティーで十分な量が補給できるかは定かではありませんが、抗酸化作用によってスムーズな血流をサポートしてくれるポリフェノール類や血行促進作用が期待されるリモネンなども含まれているため血液循環の改善をサポートしてくれる可能性はあるでしょう。
血行が良くなり冷えが緩和されることや、消化機能が整うことは免疫力の強化にも繋がります。リモネンなどの精油成分は抗菌作用を持つと考えられているものが多く、オレンジピールに含まれているp-シネフリンには気管支拡張効果が期待されていること・民間療法上の効能として去痰作用(粘液を取り除く働き)を持つという説もあることから、風邪予防や風邪の初期症状・喉に違和感がある際のケアなどにも使用されています。体を温めたい時はシナモン、呼吸器系の不調があるときはセージなど、目的に合わせてブレンドティーを作ってみるのもおすすめです。
炎症・アレルギー軽減にも期待
オレンジピールに含まれているポリフェノール(ヘスペリジン、ナリンギン)はアレルギー反応によって引き起こされる炎症を抑制する働きも期待されています。どちらの成分も血液の状態を整えたり毛細血管を強化する働きによって血管透過性を適切に保ち炎症を抑制することに繋がると考えられているほか、ヘスペリジンには炎症性サイトカイン産生を強力に調節する可能性も示唆されています。こちらも有効性は断定されていませんし、単離された成分ではなくオレンジピールもしくはそれを使ったハーブティーとして摂取した場合の働きは未知数です。過剰な期待をせず、サポート効果があるかもしれない食品程度の認識で取り入れて下さい。
そのほか期待される作用と懸念
減量目的での使用について
オレンジピールが健康食品として注目を浴びた大きな要因として、p-シネフリンと呼ばれるアルカロイドの存在もあります。p-シネフリンはビターオレンジ以外に温州みかんや夏みかんなどにも含まれている酸味成分で、アドレナリン受容体を刺激することで脂肪燃焼をもたらす可能性が示唆されている成分。交感神経興奮剤として使われるアルカロイド“エフェドリン”と構造が似ていることで注目されました。
というのも、かつてアメリカでは“エフェドリン”を含むマオウを減量とした「エフェドラ(Ephedrae)」などの健康補助食品がダイエット用として多く販売されていたという歴史があります。交感神経興奮作用による食欲低下・脂肪燃焼効果があると謳われダイエットの定番成分くらいの位置付けであったそう。しかし、“エフェドリン”には向精神作用や幻覚作用・重篤な健康被害をもたらすことが判明し、現在は使用が規制されています(日本では元々マオウやエフェドリンは医薬品以外での使用が禁じられています)。
そのため現在のダイエットサプリメントは「エフェドラフリー」で安全性をアピールするようになっており、エフェドラの代替え品として注目されたのがミカン類に含まれているp-シネフリンです。ビターオレンジなどから抽出されたシネフリン配合製品はエフェドリンのような副作用がなく安全であると謳われていますが、エフェドリンと同様の健康被害が懸念されている成分でもあり、ダイダイ抽出物(シネフリン)を含むダイエット用サプリメント製品の摂取によるものと見られる狭心症や心筋梗塞などの健康被害も報告されています。
2017年10月『Phytotherapy Research』に発表されたビターオレンジ抽出物およびp-シネフリンに関するレビュー[5]では使用された製剤にはp-シネフリン以外の成分も多く含まれていることを指摘し、使用容量と副作用の関係についてはさらなる研究が必要としつつ“一般的に使用される用量では、p-シネフリンは重大な心血管作用やその他の有害事象を引き起こさない”と結論付けています。ヒトを対象としたを対象とした二重盲検並行試験では「シネフリンの有効性は認められない」という報告もありますし、健康被害が報告されている事も考えれば自己判断で安易にシネフリン製品を摂取しないほうが確実でしょう。抽出成分を使った製品ではなくオレンジピールを通常料摂取する(マーマレードにして食べる・お茶にして飲むなど)程度であれば、健康な方の場合は問題ないと考えられています。
ストレス対策・安眠サポートに
オレンジピールの主要精油成分(芳香成分)であるリモネンはマウスを使った実験で鎮静作用と運動弛緩作用を示したことが報告されています[6]。アロマテラピーなどの自然療法でもオレンジの香りはリラックスや安眠サポートに役立つ存在として扱われており、ストレス性の気分の落ち込みや不安・寝付きの悪さが気になる時に活用されることも。上記でビターオレンジに含まれているシネフリンは交感神経・向精神作用を持つと紹介させていただきましたが、含有量が少量オレンジピールそのものや芳香を楽しむための精油の場合はそうした懸念も低いです。
同じ柑橘系でもレモン(レモンピールなど)はリフレッシュ効果が強く、オレンジはリラックス効果が強いという説もありますよ。ハーブティーとしてもマイルドでフルーティーな柑橘系の香りが楽しめますから、リラックスタイム用のブレンドにも適しているでしょう。オレンジフラワーやラベンダーとも相性が良いのでブレンドしたり、ミルクやハチミツを入れるなど、お好みに合わせたリラックスタイムティーを作ってみても良いかもしれません。摂取する以外に、オレンジの皮を枕元に置いておいておくなんていうおばあちゃんの知恵袋的活用法もあるようです。
お茶以外の使い方
入浴剤として
ビターオレンジに限らず、ミカン・オレンジ類の果皮の有効活用法として紹介されることの多いのが入浴剤としての利用。ハーブティー用のオレンジピールをいきなり湯船に入れてしまうのはちょっと勿体ない気もしますが、一度飲んだ後の出がらしを活用したり、食べた後のミカンやオレンジの果皮を使用するなど経済的な方法もあります。乾燥させていなくても使用できますが、果物として販売されているものであれば無農薬かつノーワックスもの、もしくは果皮をよく洗って使用することをお勧めします。
オレンジピールをお湯に入れるとほんのりオレンジの香りが広がることでリラックス効果、リモネンなどによる血行促進作用によって体を温める働きが期待されています。血行促進から冷え性緩和・肩こりや腰痛などの軽減に繋がつ可能性もあるでしょう。ストレスや疲労を感じているときにも良さそうですね。ただしオレンジには光毒性のある成分(フロクマリン類)が含まれているため、使用するタイミングは夕方以降が無難。特にオレンジピールそのものではなく精油を使用する場合には注意が必要です。
スキンケアに
オレンジピールはフラボノイドやビタミンCなどの抗酸化物質が含まれていること、リモネンによる血行促進作用が期待できることからスキンケアにも利用されています。血行促進によるくすみ対策・ビタミンCによるメラニン色素生成抑制作用によって美白ケアに役立つという見解もあります。ちなみにローズマリーがメインではあるものの「ハンガリアンウォーター」のレシピにもオレンジが含まれているそう。ただし皮膚刺激性があること・光毒性を持つ成分が含まれているため使用には注意が必要です。
オレンジピールの注意事項
- 妊娠中・授乳中の方、小さいお子さんへの使用を避けましょう。
- シネフリンは医薬品やカフェインと相互作用を持つ可能性が報告されています。持病のある方・医薬品を服用中の方は医師もしくは薬剤師に相談の上で利用しましょう。
- 稀に光過敏症を起こすことがあります。肌の弱い方は注意が必要です。
参考元
- Sequencing of diverse mandarin, pummelo and orange genomes reveals complex history of admixture during citrus domestication
- Bitter Orange | NCCIH
- [1]柑橘のヘスペリジン
- [2]Hesperidin contributes to the vascular protective effects of orange juice: a randomized crossover study in healthy volunteers
- [3]Gastroprotective effect of limonene in rats: Influence on oxidative stress, inflammation and gene expression.
- [4]みかんが冷え性対策になる理由 研究者注目の成分「ヘスペリジン」
- [5]Safety, Efficacy, and Mechanistic Studies Regarding Citrus aurantium (Bitter Orange) Extract and p‐Synephrine
- [6]Central effects of citral, myrcene and limonene, constituents of essential oil chemotypes from Lippia alba (Mill.) n.e. Brown.