天然のアスピリンとして鎮痛・消炎用に取り入れられているハーブ
アスピリン誕生のきっかけになったハーブとも言われるホワイトウィロウ。ピポクラテスの時代から既に鎮痛作用があることが認められていたと伝えられており、アスピリンが定着した現在でも副作用の少ない天然の鎮痛解熱剤としてティーやサプリメントが取り入れられています。やや飲みにくいのでブレンドに使うのもおすすめ。またプロスタグランジンの生成を抑制することから、生理痛の軽減・かゆみなどの炎症抑制にも効果が期待されています。
ホワイトウィロウについて
植物紹介:ホワイトウィロウ
ホワイトウィロウというと聞き覚えがないと感じる方も多いかと思いますが、和名をセイヨウヤナギ(西洋白柳)というヤナギの一種。ヨーロッパ他アジア北部や北アメリカにも自生しています。ホワイトウィロウを語る際には必ずと言って良いほど「サリチル酸」もしくは「天然のアスピリン」という言葉が登場します。天然のアスピリンと称されるハーブ・食材はいくつもありますが、アスピリンと似た成分を含むメドウスイートやウィンターグリーンなど同じくサリチル酸を含むものと、単に鎮痛や解熱効果に優れるものの大きく2つにわけられます。ホワイトウィロウは前者のサルチル酸誘導体を含むハーブであり、かつ「アスピリン誕生のきっかけ」になったハーブでもあります。
元々ヤナギの葉に鎮痛効果があるということは、紀元前から知られていました。古代ギリシア時代の医師で医学の祖・医聖とも言われているヒポクラテスは「柳の皮を煎じると痛み止めになる」と記述しています。またヒポクラテスから数百年後に活躍した、同じく古代ギリシアの医者で薬理学と薬草学の父とも言われるペダニウス・ディオスコリデスが認めたハーブの一つとしても紹介される存在でもあります。彼の著書である『薬物誌(マテリア・メディカ)』には「背中の痛みに柳の葉・胡椒を潰したものをワインで飲むと良い」と書かれているのだとか。これらのウィロウ(柳)がホワイトウィロウであったのかはハッキリしませんが、紀元前から柳の葉や樹皮に消炎・鎮痛作用があることが認められていたのは間違いないでしょう。
後に科学が発達してくるとハーブの薬効成分についての研究が盛んに行われるようになります。19世紀初頭になるとホワイトウィロウの樹皮から解熱効果を持つ成分“サリシン”が分離されたことが始まり。しかしサリシンは苦味が強く内服に適さないことから研究が重ねられ、後にサリシンの分解物であり苦味のない“サリチル酸”が発見されます。ちなみにサリシン(Salicin)やサリチル酸(salicylic acid)という呼び名は、柳を意味するラテン語salixに由来しています。ヤナギ属の属名も“Salix”ですね。1860年台に入るとメドウスイートからサリチル酸が分離されたこともあり、鎮痛解熱薬としてサリチル酸への注目が高まります。しかしサリチル酸は刺激が強く胃腸障害が出るという難点がありました。
この副作用を弱めるためドイツのバイエル社によってサリチル酸をアセチル化する方法が開発され、1899年に「アスピリン」として商標登録され販売が行われるようになります。アセチルサリチル酸(アスピリン)は世界初の人工合成された医薬品とされていますし、その元となったホワイトウィロウもセットでよく知られた存在なのです。
ところでサリチル酸の副作用を和らげて製造されたアスピリンですが、それでも継続的な利用で胃腸障害を起こす人が少なくないことが指摘されています。サルチル酸誘導体を含むホワイトウィロウはより危険なのでは?と感じますが、実は合成されたものよりも副作用は少ないと言われています。もちろん胃腸の弱い方や摂取量・期間には注意が必要ですが、優しい鎮痛剤として薬に頼りたくないという方に支持されているのだそうです。
基本データ
- 通称
- ホワイトウィロウ(White willow)
- 別名
- セイヨウヤナギ(西洋白柳)、Willow Bark(ウイローバーク)
- 学名
- Salix alba
- 科名/種類
- ヤナギ科ヤナギ属/落葉高木
- 花言葉
- 愛の悲しみ、従順、自由など(※柳全般)
- 誕生花
- 3月12日、6月18日など(※柳全般)
- 使用部位
- 樹皮
- 代表成分
- サルチル酸誘導体(サリシン)、タンニン類、フラボノイド類、ミネラル類
- 代表効果
- 鎮痛、解熱、消炎、止瀉
- こんな時に
- 頭痛、偏頭痛、歯痛、腰痛、関節炎、リウマチ、生理痛、発熱、かゆみ、下痢、腹痛、二日酔い
- おすすめ利用法
- ハーブティー、ハーブチンキ
- ハーブティーの味
- スッキリとした木の香り、苦味があり渋味が舌に残る場合も
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
ホワイトウィロウの栄養・成分・期待できる効果
ホワイトウィロウティー
天然の鎮痛・解熱剤として
痛み止めに
身体に痛みや炎症が発現するには“プロスタグランジン(PG)”という生理活性物質が関与していることが分かっています。プロスタグランジンは第三のホルモンとも称される様々な生体反応に関わる物質で、刺激に対して「痛みを増幅する(反応性を高める)」ということがよく知られています。悪者というわけではなく患部の治癒促進や体機能バランスをとるために必要な存在ですが、過剰に反応して必要以上の痛みを感じさせることもあります。
この痛み物質とも呼ばれるプロスタグランジンはアラキドン酸という脂肪酸にシクロオキシゲナーゼという酵素が働きかけることで生成されます。サリチル酸はシクロオキシゲナーゼの働きを阻害することでプロスタグランジンの生成を抑制する=痛みの伝達を弱める働きがあると考えられています。ホワイトウィロウに含まれているサリチル酸誘導体(サリシン)は体内でサリチル酸へと変換される物質であるため、鎮痛作用を持ち頭痛・歯痛・関節炎・リウマチなどの痛みを和らげるとされています。
ただし天然成分だから副作用の心配がない、ということはありませんので摂取量には注意が必要です。また苦みがあるため、人によってはシングルで飲むのが辛いという場合もあります。成分的にも多飲は避けたいものですから、ジャーマンカモミールやレモンバームなどに少量ブレンドして用いると良いでしょう。飲用は一日1~2杯程度に留めまるのが無難です。
生理痛の軽減用に
女性の月経というのは、妊娠しなかった場合に子宮内膜がはがれ落ちることを指します。プロスタグランジンにはいくつか種類がありますが、その中でもプロスタグランジンE2(PGE2)と呼ばれるものは子宮内膜を排出するために子宮を収縮させる働きと痛みを増幅させる働きを持っています。プロスタグランジンE2の分泌が多すぎる場合は子宮が必要以上に強く収縮する・痛みが強く通知されることで、生理痛が重くなると考えられています。
ホワイトウィロウはプロスタグランジンの生成抑制作用があるため、生理痛の軽減にも役立つと考えられています。またプロスタグランジンが関係すると考えられる頭痛・めまい・だるさなどの不快感軽減にも効果が期待されていることから、生理痛のほかPMSなどの症状軽減にも取り入れられています。PMSや生理痛などの軽減としてはラズベリーリーフやチェストベリーとブレンドして用いられることもあるようです。
解熱剤として
私達の身体は異物が侵入してきた際、ウィルスやアレルゲンなどと戦うため体温を上げようとします。大まかな順序としては初めに免疫活性食細胞がサイトカインを作り、サイトカインが脳の視床下部へと情報を伝えるためにプロスタグランジンE2(PGE2)の産生を促します。このプロスタグランジンが脳へ情報を伝えることで体温調節中枢が体温を上げるように司令し、熱が上がるという流れになります。
ホワイトウィロウに含まれているサリシンから体内で作られるサリチル酸は、プロスタグランジンの生成を抑制することで熱生成を高めにくくする働きがあります。このため解熱剤として働き、上がりすぎた体温を平熱まで下げる働きがあります。
そのほか期待される作用
炎症・かゆみ止めとして
ホワイトウィロウというと鎮痛解熱に役立つハーブとして紹介されることが多いですが、痛みと同様に発赤・腫れ・かゆみなどの炎症もプロスタグランジンを伝達役とした防御反応の一種です。このためプロスタグランジンの働きを抑える働きが期待できるホワイトウィロウは抗炎症剤としての働きも期待されています。欧米では鎮痛用というより炎症抑制サポートのサプリメントして支持されているのだとか。身近なところでは虫刺されのかゆみ止めに役立つとも言われていますし、アトピー性皮膚炎の皮膚の痒み・過敏性腸症候群などの軽減にも取り入れられているようです。
下痢・二日酔いに
ホワイトウィロウはサリシンの他にタンニンを含んでいます。タンニンには収れん作用があり、腸の粘膜の痙攣を抑えることで下痢の改善にも役立ってくれるでしょう。また胃腸の活動を高める働きも期待されていますので少しお腹の調子が悪いかなという時にも良いとされています。ただし胃酸の分泌が促進されるので空腹時に飲むと逆に胃腸に負担がかかる危険性がありますし、便秘気味の方は便秘が悪化する可能性もありますので注意が必要です。そのほかタンニンはアセトアルデヒドと結合して体外への排出を促す働きもあり、二日酔いの軽減にも有効とされています。
ホワイトウィロウの注意事項
- 妊娠中・授乳中の方、お子さんやアスピリンにアレルギーのある方は使用を避けましょう。
- 持病のある方・薬品を服用中の方は医師に相談の上で利用して下さい。
- 健康な成人であっても摂取量には注意が必要です。不快感を覚えた場合は使用を中止しましょう。
- タンニンを含むため貧血気味の方・鉄剤を飲んでいる方は摂取タイミングに注意が必要です。