【クローブ/丁子】
原料植物とハーブティーや精油に期待される効果効能

ヨーロッパではペスト対策に使われた歴史も…

世界4大スパイスの一つにも数えられる、甘みのあるスパイシーな香りが特徴的なクローブ。アーユルヴェーダや中医学では古くから生薬として利用されてきた歴史を持ち、現在も民間療法では冷えによる腹痛・消化器サポートとして用いられています。代表成分のオイゲノールには高い抗菌作用が報告されていることから口腔ケアや口臭対策に、また近年は抗酸化作用の強いアンチエイジングスパイスとしても注目されています。

クローブ/丁子のイメージ画像

クローブとは

植物紹介:クローブ

甘いようなスパイシーなような…咳止めシロップや歯医者さんを思い出す独特の香りが特徴的なクローブ。肉料理に使われることが多いスパイスでもありますし、甘い香りからスパイスクッキーややケーキ類・チャイの香り付けとして使用されていることもあります。料理のためにクローブを買い揃えた・常備しているという方は少ないかも知れませんが、実はインドのミックススパイス「ガラムマサラ」をはじめウスターソースやケチャップ類の主要なスパイスの一つとしても配合されています。クローブは意外と私達にとっても身近なスパイスであり、胡椒・シナモンナツメグと共に“世界4大スパイス”と呼ばれるほど世界各国で親しまれている香辛料でもあるんですね。

クローブはインドネシア・モルッカ諸島原産のフトモモ科樹木です。香辛料として使用するためのクローブをホールで買うと釘のような不思議な形状の物体が入っていますが、これは花が咲く前のつぼみ(花蕾)部分を摘み取って乾燥させたもの。このことから英語ではクローブの木と区別するために“クローブ・バッド(Clove Bud)”とも呼ばれています。クローブの花蕾は最初は淡い緑色で、開花タイミングが近づくにつれて緑→赤へと変化していきます。赤い部分が多くなってきて開花寸前、というところがクローブの収穫タイミングなのだとか。ちなみに英名Cloveはラテン語で爪を表す“clavus”という言葉が語源。中国では爪ではなく釘に似ているということから釘と同義とされる丁の字を使って“丁子(チョウジ)”、または芳香を放つという特徴から“丁香”や“百里香”と呼ばれるようになりました。クローブの香りは強いため百里先からも分かると言われていたそうですよ。

クローブは非常に古い時代からユーラシア大陸各地で使用されていた、歴史あるスパイスの一つ。紀元前200年頃にはジャワから中国(漢王朝)への使節が息を香らせる口中清涼剤としてクローブを伝えたと言われており、紀元前の中国では皇帝に謁見する人は事前にクローブを噛んでおくことがマナーとされていたようです。紀元前のうちには中国医学やインドのアーユルヴェーダなどで殺菌消毒・消化器の治療に役立つハーブとして使われていたとの見解もあります。1世紀~2世紀頃には中国から絹などと共にヨーロッパへもクローブが伝わり、生薬・香辛料として貴族の間で珍重されるようになっていきました。日本にも飛鳥時代(5~6世紀頃)には中国から伝わっていたようで、正倉院の宝物の中にも丁子が含まれています。現在でもクローブ=丁子は一部の漢方処方に使われていますが、1500年近く前から日本でも使われていたというのは少々意外ではないでしょうか。

そしてヨーロッパでは中世に入った頃からクローブがどんどん値上がりしていったようです。クローブ貿易をになっていた中国人やオマーン人商人が原産地・原価を秘匿しており、言い値で買わされるような状態だったのだとか。しかし大航海時代に入ると貿易路を辿りスパイスの産地を発見しよう・征服しようという動きが盛んになります。1511年にはポルトガル人がバンダ諸島に到達したことでクローブの原産地を見つけ出し、一時クローブはポルトガルの独占状態に。しかし17世紀にオランダがポルトガルを抑えると、自分たちの分となるクローブの苗木を略奪しモルッカ諸島の木は全て伐採してしまったという逸話もあります。1770年にフランス人が苗木を盗み出し、モーリシャスやザンジバルで栽培を始めたことでクローブの木は世界中へと広がっていきました。

こうしたスパイス戦争と称されるヨーロッパ各国の動きの原因の1つとして、17世紀頃に大流行したペストやコレラの影響もあると考えられています。当時はまだ医学や科学が発達しておらず、伝染病の原因は悪臭である⇒良い香りの空気を作ると感染しないという考え方が主流。そこで強い芳香を持つクローブが空気浄化に適している言われ、女性はスカートの裾にクローブを入れたり、医者はマスクにクローブを詰めて空気を濾過したりしていたそう。伝染病対策としてクローブの需要と価値が高まり、値段が高騰したという見解もあり、オレンジにクローブを沢山突き刺した“オレンジポマンダー(香り玉)”も元々はペスト避けのお守りとして使われていたものと言われていますよ。

基本データ

通称
クローブ(Clove)
別名
丁字/丁子(チョウジ)、丁香(チョウコウ)、百里香(ひゃくりこう)、鶏舌香(けいぜつこう)など
学名
Syzygium aromaticum
科名/種類
フトモモ科フトモモ属/常緑高木
花言葉
神聖・威厳・上品・優雅さなど
誕生花
3月3日、8月15日、12月14日
使用部位
蕾(クローブ・バッド)
代表成分
精油(オイゲノール、カリオフィレンなど)、フラボノイド類(ケンペロール、オイゲニン、ラムネチン)、フィトステロール類(カンペステロール、スティグマステロール)、ビタミン、ミネラル、タンニンなど
代表効果
抗菌、抗真菌、加温、健胃、消化促進、駆風、消臭、抗酸化、鎮痛、局所麻酔、収斂
こんな時に
風邪予防、消化不調、食欲不振、冷え、口臭、歯痛、歯肉炎、アンチエイジング、生活習慣病予防
おすすめ利用法
料理用ハーブ(香辛料)、ハーブティー、ハーブチンキ、ポプリ、精油
ハーブティーの味
柑橘系+漢方薬のような独特な香り、口に入れるとピリッと辛味がある
カフェインの有無
ノンカフェイン

クローブの成分と作用

クローブティーに期待される効果

風邪予防・消化器サポートに

抗菌・風邪予防に

クローブの特徴成分と言えるのが、独特の芳香の元でもある“オイゲノール(eugenol)”という精油成分。オイゲノールは抗菌・抗真菌特性があることが示されており、試験管研究では大腸菌やピロリ菌に対しての有効性も報告されています。防腐作用を示すという報告もあることから、クローブは天然の抗菌防腐剤のような働きが期待されています。古い時代の人々が食材の保存や伝染病予防に使用していたというのも、あながち迷信だけとは言い切れませんね。

また、クローブは東洋の伝統医療であるアーユルヴェーダと漢方の両方で、加温作用を持つ生薬として用いられてきた歴史があります。煮出したハーブティーや薬湯を飲むだけではなくお酒に漬け込んで薬酒作りにも使われており、薬用酒「養命酒」にも丁子(クローブ)が配合されています。言われているような体を温めて血行を促す効果があるのかを示す研究・証拠はありませんが、オイゲノールには抗菌作用が期待できますから合わせて風邪予防・風邪のひき始めや寒気がする時のケアに役立ってくれる可能性はあります。エルダーフラワージンジャーとブレンドしても良いでしょう。


胃腸機能のサポートに

クローブは伝統的にお腹の薬として使用されてきました。香りの刺激で胃の働きを助ける芳香性健胃作用が期待されており、料理と合わせて摂取することで胃酸の分泌を高めて食欲増進・消化促進を手助けすると考えられています。漢方では生薬“丁子”が消化不良・嘔吐・下痢などの緩和に用いられており、体を温める働きがあることと合わせて冷えによる腹痛・下痢の軽減に良いとされているようです。血液循環が良くなり消化器官の冷えが改善されれば胃腸機能全体の向上に繋がる可能性もありますね。消化器官系の不調にはカルダモンキャラウェイなどとブレンドして利用することが多く、飲みやすさを重視する場合はオレンジピールなどが加えられます。

こうした伝統的な効能については作用成分や作用秩序は分かっておらず、有効性については疑問が残ります。しかし、科学的な部分からもクローブが胃の健康維持に役立つ可能性は示唆されていますよ。2008年にはナイジェリアで行われた動物実験でクローブ抽出物が潰瘍数と潰瘍面積を優位に減少させたことが『Nigerian Quarterly Journal of Hospital Medicine』に発表され、2011年『Naunyn-Schmiedeberg’s Archives of Pharmacology』ではに動物実験でクローブ精油の主成分オイゲノールが胃粘液の産生を大幅に増強する可能性が見られたというブラジルの研究が掲載されています。まだ有効性が断定される段階ではありませんが、オイゲノールにはピロリ菌に対しての抗菌特性も報告されていますから、胃潰瘍予防として取り入れてみても良いかもしれません。


口臭予防・口腔ケアに

クローブの精油成分であるオイゲノールは優れた抗菌作用を持つことから、自然な口腔の健康維持の方法として有効性が研究されています。2014年にインドで行われたティーツリー・クローブ・バジルで構成されるハーブ洗口液の抗プラークおよび抗歯肉炎効果についてのテストでは、ハーブ洗口液を21日間使用することで口内の歯垢・細菌量・歯肉の状態に改善が見られたことが報告されています。こちらは洗口液に使用された複数のハーブの働きですが、1966年『Journal of Natural Products』には試験管研究でクローブ抽出物が歯周病病原体に成長阻害活性を示したという報告もなされていますよ。

口内の菌の繁殖を抑えることは虫歯予防に役立つというだけではなく、菌の代謝物の生成を防ぐことで口臭予防にも繋がります。クローブは胃腸機能を向上させ消化を促進する働きも期待できますから、そちらからも口臭予防に繋がる可能性があるでしょう。クローブ自体に芳香があること・クローブは消臭に役立つという説があることから、口臭自体を抑える・口臭の発生を予防すると2つの方向でお口のエチケットに役立つのではないかという見解もあります。歯磨きの代用品として使えるほど有効性があるかは定かではありませんが、普段のお手入れにプラスして使うことでお口の中を清潔に保つ手助けが期待できるでしょう。

そのほか期待される作用

抗酸化物質の補給に

クローブの代表成分と言えるオイゲノールは天然フェノール化合物の1つで、抗酸化作用を持つことが認められています。2010年に『Methods in Molecular Biology』に発表されたアメリカのvitroおよびin vivoでのオイゲノールの抗酸化活性の評価では、オイゲノールが脂溶性抗酸化剤として働くことが示されています。クローブはオイゲノール以外にケンペロールなどのフラボノイドを含んでいることも認められており、かつてアメリカ食品医薬品局が公開していた抗酸化作用の強さを表す“ORAC(酸素ラジカル吸収能力)”ではスパイス類でトップクラスに入っていたことから高い抗酸化作用を持つと推測できます。

活性酸素/フリーラジカルの過剰な増加は、細胞を酸化させることで老化・炎症・細胞変性などの様々な悪影響を引き起こす可能性があることが指摘されています。高い抗酸化作用が期待されるクローブは抗酸化作用によって体を若々しく健康に保つ手助けをしてくれるスパイスとしても注目されています。また、オイゲノールが過酸化脂質抑制作用・血小板活性化因子(PAF)抑制作用を持つ可能性を示唆した報告もあることから、高血圧や動脈硬化などの生活習慣病予防のサポートにも期待されています。


鎮痛(局所麻酔)用に

クローブに含まれているオイゲノールは抗菌作用以外に、鎮痛・局所麻酔作用があると考えられています。このため古くは歯科で歯痛や居所麻酔などに利用された歴史もあり「歯医者さんのハーブ」と称されることも。鎮痛作用は歯・歯茎だけに作用するわけではないため、民間療法では腰痛・関節痛・喉の痛みなど幅広い「痛み」を抑えるために使用されることもあります。ただしオイゲノールを含むクローブオイルが歯痛他の痛みに有効だという証拠はほどんど存在していないという指摘もあります。


血糖値対策・肝臓サポートについて

クローブは抗酸化作用からだけではなく、より直接的に糖尿病対策や肝臓病の予防に役立つのではないかという見解もあります。ナイジェリアの研究チームによって行われたクローブ粉末を糖尿病ラットモデルに投与した実験では、何も投与しなかったグループに比べクローブ摂取群は血糖値が低く、抗酸化物質のレベルが上昇していたことを観測しています。2014年にこの研究は『Journal of the Science of Food and Agriculture』にて発表され、結論として“結果はクローブが2型糖尿病状態で高血糖、高脂血症、肝毒性、酸化ストレスを軽減する可能性があることを示唆している”と締めくくられています。

類似した結果を示した研究も存在していますし、肝臓に対しては別の動物実験で肝機能改善・炎症と酸化ストレスを減少させたという報告もあります。人を対象とした小規模実験でも肝臓保護効果が見られたという報告が若干数あるようですが、現時点でクローブ/オイゲノールの有効性は断定されておらず、医療目的での使用も許可されていません。多量に摂取すると毒性を持つことも認められており、肝臓障害を引き起こしたケースもあります。健康維持のために食品の一つとして取り入れてみても良いとは思いますが、摂取量に注意し、疾患・何らかの数値に不安がある場合は医師の指導のもとで治療を行いましょう。

お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果

クローブを使ったオレンジポマンダー

防カビ・防虫用として

クローブに含まれているオイゲノールは抗菌作用だけではなく、防カビ・昆虫忌避作用を持つことも報告されています。筆者がかつてオレンジポマンダーをロッカーに飾って忘れていたときは、クローブの刺さっていない部分にだけカビが生えましたが…。またオイゲノールは虫除けの成分としても使われており、蚊やノミにも効果がありますが、特にゴキブリに対して高い忌避作用が観測されているようです。精油を染み込ませた布や、布に包んだドライハーブを置いておくとゴキブリが寄り付かなくなるなんて言われるほど。

どの程度の効果があるのかは不明ですが、買ったハーブが余った時などにナチュラルな虫よけ剤として活用してみても良いかもしれません。ただし犬や猫などに対しても忌避剤として働くと言われていますので、ペットがいる場合は使用を控え、直接ペットには使用しないようにしてください。

口臭対策・口腔ケア

クローブには口臭を抑える働きがあるため、食後にお茶を飲む以外にハーブティーをマウスウォッシュとして利用することもできます。もちろん虫歯予防などにはきちんとした歯磨き・マウスウォッシュの使用が必要ですが、歯を磨きすぎかなと思っている時・歯磨きしにくい会社にポットに入れて持っていくなど活用は出来るのではないでしょうか。クローブだけだと辛い場合は同じく口臭対策が期待できるペパーミントやジャスミンティーに加えても良さそうですね。そのほか鎮痛作用が期待できることから、歯医者さんに行くまでの歯痛や歯肉炎による不快感対策にも使えそうです。

スキンケアに

オイゲノールは抗菌作用を持つこと・収斂作用を持つタンニンが含まれていることから、クローブはニキビ予防や脂性肌のケアにも用いられることがあります。よりオイゲノール濃度の濃いクローブ精油は水虫など真菌性皮膚炎のケアや再発予防に役立つのではないかという見解もあります。そのほかピーリング剤的な機能がある・肌のアンチエイジングに良いなどの説もありますが、クローブは皮膚刺激性があるため使用はあまりお勧めできません。皮膚に対する有効性についても根拠が不十分とされている部分が多いため、リスクを犯してまで使用する必要はないでしょう。利用してみようという場合は精油を希釈して使うよりも、ハーブティーの方が刺激が少ないと考えられますが、その場合もパッチテストは必ず行うようにしてください。

クローブ精油に期待される作用

精油をスキンケアやマッサージに利用する場合は必ず希釈して利用してください(協会によって精油希釈濃度の基準は異なりますが、肌に使用する場合は概ね1%以下が安全とされています)。精油の経口摂取は出来ません。

クローブの精油はハーブと同じ蕾を利用した「クローブバッド」と、葉から採油した「クローブリーフ」がの2つがあります。この2種ではクローブリーフの方がオイゲノール含有率が高く扱いが難しい精油。一般的に流通しクローブ精油と呼ばれているのはクローブバッドの方のため、下記でもクローブとしてクローブバッド精油の成分や期待されている作用を紹介しています。とはいえクローブバッドもオイゲノール含有率が高く、刺激性・毒性が指摘されている精油ですから使用には注意が必要です。高濃度・長時間の使用は避けましょう。

心への作用

クローブの香りには刺激作用と興奮作用があるとされています。ハーブテイーの場合は精油成分の少なさからか若干リラックス作用があるのではという見解がある程度ですが、精油の場合は成分が濃縮されているため気分を盛り上げる・集中力・記憶力向上などのサポートとして用いられることが多いようです。リラックスタイムや睡眠時の香りとしては適していないのかもしれませんね。そのほか日本人からすると薬臭いような独特なクローブの香りですが、欧米ではオリエンタルな香りで催淫作用があるという説もあるそう。


体への作用

ハーブティー同様に加温作用(体を温める働き)を持つ精油として扱われ、消化機能促進・鎮痛などの目的で使用されています。精油にすることでオイゲノール濃度が高まりますから抗菌剤や昆虫忌避剤としての効果は高いと考えられており、風邪やインフルエンザほか様々な感染症の予防に役立つという説もあります。しかしクローブやオイゲノールに報告されている作用は可能性段階のものが大半のため、精油の使用についても有効性は不明です。肝毒性や刺激性の高さが指摘されている精油でもありますから、多量に使用するのは避けましょう。

クローブの注意事項

  • 妊娠中・授乳中の方、お子さんへの利用は避けましょう。
  • 持病がある・医薬品を服用中の方は医師に相談しましょう。
  • 多量の摂取は控えましょう。
  • 一部の方はクローブ/オイゲノールにアレルギー反応を示す可能性があります。アレルギー体質の方は使用に注意が必要です。

参考元