解熱・月経トラブル・肌のケアなどに幅広く役立つ
ヤロウは原産地であるヨーロッパでは紀元前から薬効が知られ、民間医薬として利用されてきた歴史ある薬草の1つです。ギリシア神話で英雄アキレスが負傷した兵士達の傷の手当にヤロウを利用したという伝説もあり、昔は止血ハーブとして重宝されたと考えられます。そのほかにお腹の調子を整える・解熱・むくみ改善・女性特有の不調の緩和などにも効果が期待されていますし、止血以外にも皮膚炎症緩和や治癒促進・ヘアケアなど皮膚コンディションを整える目的で外用利用されることもあります。幅広い用途を持つハーブと言えますね。
ヤロウについて
植物紹介:ヤロウ
ヤロウはセイヨウノコギリソウという和名からも分かるとおり、ヨーロッパが原産。近くの植物の病気や害虫予防に役立つコンパニオンプランツとしてや、小さな花が沢山集まった外見などからヤロウは園芸植物としても人気があります。園芸上は属名のアキレアや種子名のミルフォイルと呼ばれることも多いですが、ハーブティーやアロマテラピーなどでは「ヤロウ」と呼ぶのが一般的です。またチャイニーズヤロウ(鋸草)やウーリーヤロウ(姫鋸草)などノコギリソウ属の植物全体に「ヤロウ」という呼び名が使われるため、混同を避けるために区別して「コモン・ヤロー」とも呼ばれます。
ヤロウは古くは「兵士の傷薬」「止血草」とも呼ばれ、ギリシャの英雄アキレス(アキレウス)がトロイ戦争で負傷した兵士達の傷の手当に利用したという伝承もよく知られています。というのも属名のAchilleaはアキレス(Achilles)の名に由来しているため。ちなみに種子名のmillefoliumは“細かく切れた葉/1000枚の葉”を意味しており、和名のノコギリソウもギザギザとした葉の形の見立てです。
トロイ戦争については紀元前1200年頃とする見方が主流ですが、実際に起きたのかや時期については諸説あります。ただヤロウの使用という点においては古代ギリシア時代、つまり紀元前には止血用などの薬効が知られており、5世紀頃からはイギリスなどでも栽培が行われ軟膏の原料として利用されていたことが分かっています。
薬用として以外にも、アイルランドでは天候占いに、スコットランドでは占い・お守り・魔除けに、イギリスでは恋占いにと各地で呪術的・神秘的な力があるとも信じられていました。中世になるとヤロウには悪魔を遠ざける強い魔力がある植物と考えられ、魔除けやお守りとして、また結婚式の花束などにも利用されていたそうです。
日本には古くからノコギリソウ(学名: Achillea sibirica)が自生しており、現存する日本最古の薬物辞典である『本草和名』などにも古い呼び名である「女止(めと)」の記載があります。ヤロウ、西洋ノコギリソウは明治時代(1900年頃)に園芸種として渡来したため日本では薬用植物としての利用はほとんど行われていません。中国(漢方)では生薬として胃腸の調子を整える時などに利用されてます。
基本データ
- 通称
- ヤロウ (Yarrow)
- 学名
- Achillea millefolium
- 別名
- 西洋鋸草(セイヨウノコギリソウ)、アキレア(Achillea)、ミルフォイル(Milfoil)、鋸草(キョソウ)、洋蓍草(ヨウシソウ)、コモンヤロー(Common yarrow)
- 花言葉
- 戦い、勇敢、真心、治癒
- 誕生花
- 5月14日、7月12・21日、8月2日
- 科名/種類
- キク科ノコギリソウ属/多年草
- 使用部位
- 地上部(花、葉、茎)
- 代表成分
- ポリフェノール類(フラボノイド、タンニン、シアニジンなど)、サポニン、精油(アズレン、カンファー、クマリンなど)、フィトステロール
- 代表効果
- 健胃、消化促進、発汗解熱、利尿、血管拡張、血圧降下、収斂、鎮痙、鎮痛、抗菌、抗炎症、止血、創傷治癒、子宮刺激作用、通経
- こんな時に
- 食欲不振、消化不良、胃痛・胃痙攣、風邪・インフルエンザによる発熱、むくみ、尿路感染症、関節炎、リウマチ、月経不順、更年期障害
外用:外傷、鼻血、皮膚炎症・かゆみ、ニキビ、痔 - おすすめ利用法
- ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ、浸出油、湿布、スチーム吸引、手作り化粧品、料理用ハーブ(香辛料)、精油
- ハーブティーの味
- 薬草感のある香りと味、少し苦味があるため好みが分かれる
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
ヤロウの栄養・成分・期待できる効果
ヤロウティー
消化器系の不調に
ヤロウはヨーロッパの薬用植物療法では消化吸収を助けるハーブとして利用されています。中国(漢方)でも胃腸の調子を整える生薬として利用されているようです。消化不良や食欲不振を改善のほか、収斂・鎮痙・鎮痛作用があり胃痛や胃痙攣、過敏性腸症候群などによる痙攣性の便秘・下痢の改善にも有効と考えられます。
解毒・解熱に
むくみ・泌尿器系トラブルに
ヤロウは発汗・利尿を促すことからむくみの予防や改善に、加え抗菌作用もあることから膀胱炎・尿道炎などの尿路感染症にも有効とされています。
ただし漢方でヤロウは体を冷やす働きのある「寒性」に分類されているため、冷え性+むくみにお悩みの方の場合は使用に注意が必要です。デトックス・むくみの改善用としてはリンデンウッドと相性が良いですし、体を冷やしすぎるのが心配な方はジンジャーなど体を温める働きのあるものを加えると良いでしょう。
毒素排出促進(解毒)
ヤロウの利尿作用や発汗作用は毒素の排出促進にも有効とされています。血管拡張作用もあることから高いデトックス効果が期待できますし、高血圧の改善にも有効とされています。また、抗炎症作用もありますので関節炎やリウマチの痛みの緩和、肌荒れ・肌トラブルの予防や改善にも効果が期待できるでしょう。
風邪などによる発熱時に
発汗作用や利尿作用は毒素排出だけではなく、体温を下げる=解熱剤としても利用されています。血管を拡張する働きもあるため相乗して放熱効果が期待できるほか、ミネラル・ビタミン類を含んでいるため栄養補給という点から強壮にも役立つと考えられます。
ヤロウは古くから民間医薬として熱を伴う風邪やインフルエンザのケアに用いられてきた歴史があり、漢方でも“清熱解毒”の効能があるとされています。風邪のケア・解熱用のティーとしてはエルダーフラワーやリンデンフラワー、ペパーミントなどとブレンドしてもよく用いられます。
女性特有の不調に
ヤロウに含まれる植物ステロール(フィトステロール)には女性ホルモン様作用があるのではないかと言われています。子宮収縮作用があるので妊娠中の利用はNGともされていますね。反面、月経トラブルや更年期症状の緩和にに役立つのではないかと考えられ、女性の体を整えるハーブとしても利用されています。月経を促す(通経)作用から月経不順や無月経に用いられるほか、止血作用による過多月経の緩和、鎮痛作用による生理痛の緩和にも役立つと言われています。
女性特有の不調全般にはカレンデュラやレディースマントル、生理痛が重いときやPMS(月経前症候群)・更年期障害で精神的な不調があるときはカモミールジャーマンやローズマリーなど症状に応じてブレンドして利用すると良いでしょう。
お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果
スキンケアに
「ブルーヤロウ」とも呼ばれるようにヤロウの精油は青色をしており、アズレン誘導体(カマズレン)を含んでいます。その他にも1,8-シネオールなど抗炎症作用のある成分も含んでいますし、カマズレンによる抗炎症・抗アレルギー・抗ヒスタミン作用などが期待できるためニキビ・湿疹など皮膚炎症のケアに有効とされています。収斂作用もありますので特に脂性肌・ニキビが出来やすい方に適しているでしょう。
精油を使って手作りコスメを自作する以外に、浸出したハーブティーを化粧水代わりにも利用出来ます。敏感肌で顔が赤くなりやすい方や大人ニキビが出来やすい方のケアとして、またシミの予防や緩和にも役立つと言われています。より集中的に利用したい場合はコットンに浸してローションパックにする、フェイシャルスチームにするなどの利用もおすすめです。
ヘアケアに
抗炎症作用と収斂作用から頭皮の脂っぽさや痒みの緩和などに役立ちます。精油は頭皮の強壮作用があるとされ、育毛・髪の毛の成長促進・抜け毛予防などにも有効とされています。手持ちのヘアケア商品にプラスしても良いですし、ハーブティーをヘアトニックのようにしても利用出来ます。
ハーブバスとして
ヤロウは薬湯・薬用入浴剤として利用されているハーブです。ドライハーブや精油などを入浴剤として利用することで入浴による精神安定やリラックス・疲労回復効果を高めてくれますし、風邪予防や花粉症緩和にも役立ってくれるでしょう。
またボディニキビや痔の予防・緩和、治りが遅い外傷の治癒を促進するなどの効果も期待出来ます。女性の場合は月経促進(月経不順の改善)や、むくみ・下肢静脈瘤などの緩和にも役立つとされています。
ヤロウ精油に期待される作用
浸出油の場合はそのまま利用することもできますが、精油をスキンケアやマッサージに利用する場合は必ず希釈して利用してください(協会によって精油希釈濃度の基準は異なりますが、肌に使用する場合は概ね1%以下が安全とされています)。精油の経口摂取は出来ません。
心への作用
ヤロウは鎮静効果が高いとされストレス・不安・緊張・神経疲労などの緩和によく用いられます。ヤロウの精油は多くの精油成分を含んでおり、少量ですがカンファーなど刺激作用を持つ成分も含まれていることから、鎮静作用と相互して精神のバランスを整える働きがあると考えられています。
ストレス性の疲労や精神のアンパランスからくる不眠の緩和にも役立つとされていますし、感情抑圧を解放する香りとも言われています。古くは占いなどに利用されていたように“直感力を高める”とする説もありますから、煮詰まってしまったときや思考が硬直していると感じている際には手助けをしてくれるかもしれません。
体への作用
消化器系のサポートや循環を整える働きがあるとされ、消化不良、腹痛・胃痛、お腹の張りや便秘、むくみ・静脈瘤などの緩和に有効とされています。体の機能を整え、強壮する精油と言われています。ハーブティー同様に発汗・利尿により解熱を促しますし、強壮+抗菌・抗ウィルス作用から風邪やインフルエンザなど感染症の予防にも役立つと考えられています。
またネロリドールを含むことから無月経、月経不順、月経困難症や生理痛など女性特有の不調の緩和にも有効とされています。ホルモンバランスを調整する働きに加え、精神面への働きかけや血液・体液循環促進、強壮作用など様々な働きによってPMS(月経前症候群)や更年期障害で起こる様々な心体の不調・不快感の緩和にも用いられます。
ヤロウの注意事項
- 妊娠中の方、医薬品を服用中の方は利用を避けましょう。
- キク科植物にアレルギーがある方も利用を避けてください。
- 精油は妊娠中・授乳中の方、幼児への使用はできません。また多量(高濃度)での使用や長期使用は控えるようにしましょう。
- 敏感肌の方が精油を肌へと使用する場合は低濃度に希釈し、パッチテストを行った上で利用してください。