胃腸の様々な不調ケアのほか、更年期障害軽減にも期待
フェンネルは栽培の歴史が最も古い植物の一つにも数えられ、ヨーロッパでは「摘もうとしない者は悪魔である」とまで言われたハーブ。ヨーロッパでもアジアでも消化機能サポートに優れたハーブとして古くから用いられており、食べ過ぎから神経性の胃腸トラブル・口臭予防まで幅広く使われています。便秘・むくみ軽減や、体を温める働きなどがあることから古代からダイエットにも用いられてきました。またエストロゲン様作用が期待されるアネトールを含むことから更年期障害や月経トラブルなど女性領域でのサポートにも効果が期待されています。
フェンネルについて
植物紹介:フェンネル
アニスなどに似た甘くスパイシーな香りが特徴のフェンネル。日本で普段スパイスとして用いられているのはフェンネルシードと呼ばれる種子(厳密には)部分で、サラダやスープから焼き菓子まで幅広く使われています。特に魚料理との相性が良いとされていますから、タイムやディルシードなどと共に「魚のハーブ」としてご存じの方もいらっしゃるかもしれません。植物としてはセリ科ウイキョウ属に分類される多年草で、同科のハーブにはアニスやクミン・キャラウェイなどがあります。タイムなどと異なりフェンネルは特定の種(学名:Foeniculum vulgare)のみを指す言葉として用いられています。
フェンネルではなく“スイートフェンネル”と表記されるものもありますが、こちらは品種の一つ。ハーブなどとして単に「フェンネル」という場合は、このスイート・フェンネルのことを指すのが一般的です。そのほか品種としては肥大した茎(鱗茎部分)であるフィノッキオが出来るフローレンス・フェンネル、主に観賞用として栽培されるブロンズ・フェンネルなどが代表的。フェンネルは種子以外にも様々な部分が利用できると言われていますが、フィノッキオとして使うものとフェンネルシードを採取するのは別品種の可能性が高いです。ちなみに葉や細い茎はフレッシュハーブとして使われており、フェンネルティーと言うと種子を使うものが多いですが葉もハーブティーにできますよ。
現在は世界中で用いられているフェンネルですが、原産地は地中海沿岸と考えられています。栽培の歴史が最も古いグループとする見解もあるほど人との関わりは古く、原産地周辺で栄えた古代エジプトや古代ローマなどでは既に栽培されていたことが分かっていますし、医療・料理など様々な用途で活用されていたと考えられています。ギリシア神話やローマ神話でも登場するようですし、ダイエット効果があるハーブとしても女性にも人気があったのだとか。
カモミールやネトル・クレソン・マグワートなどと共に“アングロサクソンの9つの神聖なハーブ”の一つにも数えられていますから、かなり古い時代に北ヨーロッパなどにも伝播していたと考えられます。中世には目に良いハーブや若返り効果があるとして人気を博し、消化促進・咳止めなど様々なケアに使える薬草とされていたため「フェンネルを見ても摘もうとしない者は悪魔である」という言葉もあるそう。その反面、魔法使いが黒魔術的な儀式に用いたとも言われ「フェンネルの種を播くのは、悲しみを播く者だ」というマイナスな言葉もあったようです。
またフェンネルはヨーロッパより西側、インドや中国などにも古い時代に伝えられたと考えられています。現在でもインドではカレー料理に使われていますし、消化を良くする働きがあるとして食後にフェンネルシードを噛む習慣も残っています。インド料理店などでレジ前に置いてあるカラフルにコーティングされた“ソーンフ”と呼ばれる粒も中身はフェンネル。中国でもミックススパイス五香粉の原料として配合されることがありますし、漢方の生薬としても大切に扱われていました。
日本には中国を経由し生薬として平安時代伝えられたと考えられており、日本に現存する最古の薬物辞典『本草和名』にも記述が残っているようです。現在でも太田胃散や仁丹などに生薬成分として配合されていますよ。属名にも使われていますがフェンネルの和名は“茴香(ウイキョウ)”で、大茴香と呼ばれるスターアニス(トウシキミ、学名Illicium verum)と区別するために小茴香とも呼ばれています。余談ですが日本薬局方ではスターアニスを原料とする精油・フェンネルを原料とする精油、どちらも区別なく「ウイキョウ油」と表記して良いことになっています。
基本データ
- 通称
- フェンネル(Fennel)
- 別名
- ウイキョウ(茴香)、ショウウイキョウ(小茴香)、スイートフェンネル(Sweet Fennel)、フヌイユ(fenouil)、フィノッキオ(Finocchio)
- 学名
- Foeniculum vulgare
- 科名/種類
- セリ科ウイキョウ属/多年草
- 花言葉
- 賞賛、賛美、精神の強さ、背伸びした恋
- 誕生花
- 7月21日、10月9・25日
- 使用部位
- 種子
(種子を葉・茎など全草を使う場合も有) - 代表成分
- 精油(トランスアネトール、フェンコン、リモネン、エストラゴールなど)、フラボノイド類(ケルセチン、ケンフェロール、ルチンなど)、ビタミン類、ミネラル類、オレイン酸、リノレン酸
- 代表効果
- 健胃、鎮痙、駆風、整腸、胃腸機能調整、強壮、循環刺激、血行促進、利尿、去痰、抗酸化、エストロゲン様
- こんな時に
- 消化不良、胃もたれ、食欲不振、腹部膨満、下痢、便秘、過敏性腸症候群、リラックス、血行不良、冷え性、むくみ、肥満予防、風邪初期、老化予防、更年期障害、PMS・月経トラブル、美肌
- おすすめ利用法
- 食用、ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ、浸出油、湿布、スチーム吸引、手作り化粧品、料理用ハーブ(香辛料)、精油
- ハーブティーの味
- 甘くスパイシーな香り、味も同様でやや刺激的
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
フェンネルシードの栄養・成分・期待できる効果
フェンネルティー
毎日のサポートに
消化器系のサポート・口臭予防に
フェンネルがヨーロッパで料理に多用されているのは肉や魚の臭みを消してくれるというだけではなく、他多くのスパイスと同様に消化を促す働きがあると経験的に知られていたのではないかと言われています。種子(果実)部分は漢方でも健胃整腸や駆風作用が生薬とされており、胃痛や胸焼けなどに処方される「安中散」にも配合されています。成分としては精油成分の主成分であるアネトールに胃腸を刺激し、消化機能を活発化させる働きがあるとされています。
このためフェンネルのハーブティーも消化促進や胃腸の調子を整える働きが期待され、食べ過ぎによる胃もたれや消化不良・食欲不振などの緩和に用いられています。ペパーミントやコリアンダーなどとも相性が良いハーブです。痙攣を和らげるのに有効とさえる成分や、リモネンなどリラックス効果を持つ成分も含まれていることから、神経性の下痢や過敏性腸症候群などの緩和にもフェンネルは良いとされています。
また胃腸に溜まっているガスを取り除く働き(駆風作用)がある・胃腸を刺激することで蠕動運動を促すという説もあるため、お腹にガスが溜まって張ってしまっている時や便秘の改善にも効果が期待されています。アネトールには胃腸の働きを高める以外に消臭作用もありますから、お食事の後の口臭対策としても利用されていますよ。インドで食後にシュガーコーティングされたフェンネルシード“ソーンフ”を食べるのも、消化を助けると共にエチケット対策でもあるのだとか。
リラックス・冷え性緩和に
フェンネルの甘くスパイシーな香りは気持ちをリラックスさせたり、心を強く持つための手助けをしてくれると言われています。かつて勇気を象徴する香りと考えられていたハーブとしてはタイムが有名ですが、フェンネルも強さや勇気をさぽーとしてくれる香りとされていたのだとか。香りの成分としてもリラックス効果が期待できるリモネン・強壮作用を持つとされるピネンなどが含まれています。フェンネルだけでハーブティーにすると香りが強く好き嫌いが分かれるとこもありますので、リラックスティーとして取り入れる場合はレモングラスやカモミールティーなどに少量加えると良いでしょう。
またフェンネルは循環器系への刺激作用を持つハーブとされており、血液循環を整えることで体を温める働きがあるハーブと考えられています。この理由としては漢方において“辛味”を持つものは停滞しているものを動かす働き(発散)があるとされていること、リモネンやピネンなど血流増加作用が期待される精油成分を含んでいることが大きいと考えられます。
加えてルチンやケルセチンなど抗酸化作用+コラーゲン生成を助けることで血管を丈夫に保つサポートが期待できるフラボノイド類が含まれていること・リラックス効果から自律神経の乱れを予防してくれることなども冷え改善に繋がるでしょう。生薬(茴香)としての五気は“平性”とされていますから温める働きはさほど高くないと考えられますが、体内の巡りが悪い・冷え気味と感じている方は取り入れてみると良いかもしれません。
デトックス・肥満予防に
フェンネルは古代ギリシアやローマでダイエットティーとして愛されてきた歴史のあるハーブでもあります。古代ギリシアでは“痩せる(marano)”という言葉に由来するマラスロン(marathron)という名で呼ばれていたとも言われています。フェンネルが肥満予防に良いとされているのは循環機能を促すことで冷え性の軽減や代謝向上に繋がること、またリンパ液の循環も良くなることからむくみ軽減効果が期待できることなどが考えられます。発汗・利尿作用があるとも言われていますし、アネトールやリモネンの働きで便秘改善にも効果が期待できるのでデトックスティーでもあるのでしょう。
こうした働きによって体内の老廃物の排出が促されることで外見的にもスッキリと見えますし、痩せやすい体質作りにも繋がると考えられることからフェンネルティーは現在でもダイエットに取り入れられています。冷え性やむくみの改善をサポートしてくれる点と合わせて女性に人気が高いようです。そのほか甘くスパイシーな香りは空腹感を和らげ食欲を抑制するという説もありますが、フェンネルティーを飲むだけで痩せるわけではありませんので注意が必要です。
風邪予防・初期症状ケアに
フェンネルはヨーロッパで咳止めや風邪のひきはじめに飲むお茶としても親しまれてきました。家庭の常備薬のようなハーブと称されるのも納得ですね。精油成分などによる鎮痙作用と去痰作用が期待できるので喉の不調軽減に繋がると考えられていますし、抗菌作用のある成分も含まれています。消化機能を整えたり、体を温める働きも期待できますから、風邪気味の時にフェンネルティーを飲むと早期回復をサポートしてくれると言われています。
抗酸化・生活習慣病予防に
フェンネルシードにはルチンやケルセチンなどのフラボノイド類が含まれています。これらは抗酸化作用を持つポリフェノールの一種であり、ビタミンCと協力して毛細血管を丈夫に保ってくれるビタミンPと呼ばれるビタミン様物質でもあります。抗酸化作用によって活性酸素の過剰増加から引き起こされる身体の機能低下や予防にも役立つと考えられますし、毛細血管の保護・修復作用と合わせて血栓など血流のトラブル予防にも効果が期待できるでしょう。また脂質であるリノール酸やオレイン酸もコレステロール値の低下や動脈硬化・高脂血症の予防効果が期待されている成分ですから、相乗して生活習慣病の予防にも役立つと考えられます。
女性の体・美容サポートに
更年期障害・月経前症候群の緩和に
フェンネルやアニスなどに含まれている精油成分のトランス-アネトールは、女性ホルモンと似た分子構造を持つフィトエストロゲン(植物性ホルモン)の一つです。植物性エストロゲンはエストロゲンと競争してエストロゲン受容体へ入り込もうとする性質があると考えられており、エストロゲン量が減少している閉経前後の女性の場合は作用は弱いもののエストロゲンと同じような働きをする・エストロゲンの働きをサポートする働きが期待されています。このためフェンネルはエストロゲンの分泌低下を軽減することに繋がると考えられており、ホルモンバランスの変化から引き起こされる更年期障害の軽減に有効とされています。エストロゲン分泌低下で発症リスクが高まる骨粗鬆症予防などにも繋がるでしょう。
また若い女性が抱える月のトラブルについては、エストロゲン減少だけではなくエストロゲン過多というパターンがあると考えられています。エストロゲン分泌過多の場合には、フィトエストロゲンはエストロゲン受容体のいくつかを埋めることで全体的なエストロゲンの働きを弱める効果もあると考えられています。このためフェンネルシードは月経前症候群(PMS)や月経不順・生理痛など、更年期障害以外の女性特有の不調軽減にも取り入れられています。更年期障害対策としてはローズティーやシベリアンジンセン、PMSや生理痛にはラズベリーリーフやローズヒップなどとのブレンドもオススメです。
母乳分泌促進・バストアップについて
フェンネルティーは伝統的に母乳の分泌を促すお茶としても用いられてきました。現在でもミルクサポート系のブレンドティーに配合されているケースもありますが、女性ホルモン様物質を含むことなどから母体・乳幼児への悪影響が懸念されています。国立健康・栄養研究所からもフェンネルやアニスを含むハーブティーを母親が飲用し新生児に中枢神経系障害が生じたケースがあることが報告されており、妊娠中のウイキョウ油・種子の使用は禁忌であることが指摘されています。ホルモンとしてもエストロゲンは乳腺を発達させますが母乳の分泌を抑える働きがあるので、フェンネルに催乳作用があるのか定かではありません。妊娠中~授乳中の使用は避けるべきでしょう。
美肌保持・アンチエイジング
フェンネルには抗酸化作用を持つフラボノイドが含まれているため、活性酸素によって細胞が傷つけられて出来るシワ・たるみなどの肌老化予防にも役立つと考えられています。ルチンやケルセチンはビタミンCと共に毛細血管を保護・修復する働きもあると考えられていますし、フェンネルは血行を促す働きも期待できますから肌にしっかりと酸素・栄養を届けことにも繋がるでしょう。血行不良によるクマやくすみの軽減、肌荒れ予防や改善促進、新陳代謝を高めることあらも肌のアンチエイジングなどに繋がると考えられます。抗酸化や美肌用としてはビタミンCが多いローズヒップなどと組み合わせると良いでしょう。
加えてフェンネルに含まれているアネトールはエストロゲン様作用が期待されている成分。エストロゲンは“美肌ホルモン”とも呼ばれている存在で、肌の弾力やハリの元であるコラーゲン生成を促す働きがあると考えられています。エストロゲンが不足している場合にはこちらからも美肌サポートが期待できるでしょう。更年期前後の女性に起こるエストロゲン減少による老化予防にも有効と考えられています。またエストロゲンは髪の毛の艶やコシを保つ・抜け毛を防ぐなどの働きもあるとして、近年は薄毛対策などでも注目されています。
お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果
炎症軽減・口腔ケアに
フェンネルには殺菌作用や抗炎症作用があるとされ、古くは洗眼用としてやうがい薬のような形でも利用されていました。現在でもハーブティーで目を洗浄すると結膜炎や疲れ目に良いという説もありますが、家庭で洗目に使う場合は雑菌・刺激性などの問題があり炎症を起こす原因となるためおすすめできません。使う場合は温湿布のような形でまぶたに乗せるようにしましょう。こちらは眼精疲労の軽減に良いと言われています。関節痛や筋肉痛の軽減に有効とする説もあります。
またハーブティーをマウスウォッシュとして利用すると菌の繁殖を抑え、歯周病の予防や口臭予防に役立つとされています。アネトールの働きから口臭予防にも繋がるでしょう。そのほか去痰作用があるとされることから、痰が絡むとき・喉の痛みがあるときなどにも用いられています。
スキンケア・入浴剤として
フェンネルは殺菌・抗菌・消毒作用が期待されており、「浄化作用を持つハーブ」とも称されるほど肌を清潔に保つ働きが高いと考えられています。このためスキンケやバスハーブとして利用すると脂性肌のケアやニキビ予防などに役立つと考えられています。また入浴剤のようにして利用する場合は体を温める働き・毒素の排出を促す働きが期待できますから、冷え性の軽減や便秘改善・ダイエットサポートにも繋がるでしょう。安眠対策として良いという説もあります。そのほか肌を強くする働きがある、肌のくすみやシミ・シワ・たるみなど老化が気になる方にも良いと言われています。
フェンネル精油に期待される作用
浸出油の場合はそのまま利用することもできますが、精油をスキンケアやマッサージに利用する場合は必ず希釈して利用してください(協会によって精油希釈濃度の基準は異なりますが、肌に使用する場合は概ね1%以下が安全とされています)。精油の経口摂取は出来ません。
心への作用
ハーブやティーの香りをさらに濃縮したフェンネル(スイートフェンネル)精油は、ストレスや緊張を和らげる働きが期待されています。ハーブティーよりも更にスパイシーさの強い香りはリフレッシュにも利用できます。アロマテラピーなどでは精神面での強壮作用を持つ精油ともされ、逆境をサポートしてくれる存在と考えられているそう。ストレスが多く感情の揺れ幅が大きいと感じている方や、生理前・生理中のイライラ対策などにも適しているでしょう。
体への作用
フェンネル精油もハーブティーと同様に消化機能サポートに優れた存在と考えられています。食欲不振・消化不良・下痢など様々な胃腸の不調に良いとされていますし、便秘などお腹の調子が良くない時は希釈してマッサージに利用するとより効果的でしょう。利尿・毒素排出促進作用も期待されているため、痩身用やむくみ・セルライトケアのマッサージオイルとしても利用されています。
また精油はトランスアネトールの濃度が高いため、女性ホルモンへの働きかけがより強いと考えられます。更年期障害・PMS(月経前症候群)・生理痛・月経不順など女性特有の不調軽減に効果が期待されている反面、妊娠中や授乳中の方・お子さんへの利用は禁忌とされています。発癌性が指摘されているエストラゴール(メチルカビコール)の割合も精油のほうが高いため、長時間の使用や高濃度での利用は避けましょう。
フェンネルの注意事項
- 妊娠中・授乳中の方、子供への使用は避けましょう。
- 婦人科系の疾患のある方・投薬を受けている方は使用出来ません。
- セリ科植物(ヨモギやニンジンなど)にアレルギーがある方は注意が必要です。
- 肌へ使用する場合は肌を刺激する場合があります。