【マーシュマロウ】
ハーブティと期待される効果効能紹介

粘液保護・抗炎症作用が期待される

マーシュマロウは根に独特の粘液質を含むアオイ科のハーブで、かつてはお菓子のマシュマロを作る際の原料としても使用されていました。古代エジプト時代から喉に良いハーブであると考えられ、現在でも粘膜保護作用と抗炎症作用によって喉や消化器を健康に保つ働きが期待されています。粘液質が保湿作用を持つと考えられることから、スキンケア製品の原料として使用されていることもありますよ。

Guimauve officinale dans les prés salés de la plage de Donnant

マーシュマロウとは

植物紹介:ウスベニタチアオイ

呼び名を聞くとハーブ(植物)よりも先に、もちもちした食感のお菓子を連想してしまうマーシュマロウ。和名ではウスベニタチアオイもしくはビロードアオイと呼ばれるようにアオイ科の植物で、現在「アオイ」と聞いて想像する方の多い園芸植物タチアオイなどと同じくタチアオイ属(Althaea)に分類されています。また、分類法によってはウスベニアオイ(マロウブルー/コモンマロウ)と同じくゼニアオイ(Malva)属に分類される場合もあります。とは言え、タチアオイは花の美しさを際立たせるために様々な品種改良が行われていますし、ウスベニアオイはピンク~紫色の花が特徴的なのに対してマーシュマロウの花は白っぽく小ぶりで良く言えば可憐・悪く言えば地味。おそらくタチアオイと比べて色が薄いことから“薄紅立葵”という和名が付けられたのでしょうし、コモンマロウよりも色が薄いことから“white mallow”と呼ばれることもあります。

そんなマーシュマロウの原産はヨーロッパ・西アジア・北アフリカにまたがる地中海沿岸地域と推測されています。呼び名として最もオーソドックスな“Marsh mallow”は直訳すると「湿地(Marsh)に生える葵(mallow)」。言葉通り沼地に自生する植物で、原産地とされる地中海沿岸には古代エジプト・ギリシア・ローマと大文明が築かれていました。こうした文明の中で紀元前からマーシュマロウは使用されていたため、ハーブとして使用された歴史が古い植物とも称されています。マーシュマロウを含むタチアオイ属の属名Althaeaは癒やす・治療するを意味するギリシア語“reflectedλθειν(althein)”が語源とされていますし、種小名officinalisも薬用として使用されてきた植物に付けられるもの。学名からもハーブとして利用されてきたことが窺えますね。マーシュマロウは根・茎・葉・花の全てが食用可能な植物であり、全ての部位に薬効があるという見解もありますが、ハーブとしては粘液質の多いマーシュマロウルート(根)が最も使用されているようです。

マーシュマロウと呼び名がよく似た、英語表記であれば“Marsh mallow”と“Marshmallow”と区切るかどうかの違いしかないお菓子のマシュマロ。マシュマロの起源についても古代エジプトで作られた、マーシュマロウの根から採れる粘り気のあるデンプンにナッツと蜂蜜を混ぜて作ったお菓子とされています。当時マーシュマロウの根をすりつぶして出来る粘液状のものが喉に良いと考えられていたため、嗜好品であり健康食品でもあったのだとか。このマシュマロの原型とされるお菓子は神とファラオ、選ばれた貴族しか口にすることは許されなかったそう。後の古代ギリシアやローマでもマーシュマロウは喉の痛みと痛みを治すと信じられ、ヒポクラテスも患者にマーシュマロウを処方したと伝えられています。

ローマ帝国の崩壊後マーシュマロウは救荒植物のような位置付けだったようですが、15世紀頃から再びハーブとして注目されるようになります。1800年代前半にはこの薬効とマーシュマロウの根から取れるデンプン質に着目したフランスのお菓子屋さんが、マシュマロの樹液に卵白と砂糖を加えてホイップすることで現代のようなモチモチ食感のお菓子“Pâté de guimauve”を考案しました。お菓子としての美味しさが重視されたのはもちろんのこと、喉やお腹を労わる働きがある健康的な菓子というのも売りだったようです。菓子名にも使われた“guimauve(ギモーヴ)”はマーシュマロウを意味するフランス語、ここから英名も同じ様に“Marshmallow(マシュマロ)”になったんですね。しかし、19世紀後半になるとゼラチン・コーンスターチを使用して同様の食感を出す方法が考案され、マシュマロ・ギモーブの名前だけが発明当時の名残として残されることになりました。マシュマロには含まれていないものの、現在でもマーシュマロウは伝統的ハーブとして民間療法・自然療法の中で使用されていますよ。

基本データ

通称
マーシュマロウ(Marsh mallow)
別名
薄紅立葵(ウスベニタチアオイ)、天鵞絨葵(ビロードアオイ)、ホワイトマロー(white mallow)
学名
Althaea officinalis
(syn.Althaea micrantha / Malva althaeaなど)
科名/種類
アオイ科タチアオイ属/多年草
花言葉
恩恵、慈善、優しさ、説得
誕生花
2月22日、6月23日
使用部位
根部分
代表成分
粘液質(L-ラムノース、D-ガラクトースなどの多糖類)、ペクチン、フラボノイド類(ケルセチン、ケンフェロールなど)、芳香性物質(クマリン、コーヒー酸、バニリン酸など)、タンニン、ラウリン酸、β-シトステロール、ラノステロール
代表効果
粘膜保護、鎮痛、抗炎症、鎮咳、抗菌・消毒、抗酸化、便通促進、利尿、収斂、創傷治癒促進
こんな時に
喉のイガイガ感・痛み、空咳、胸焼け、胃痛、便秘、下痢、風邪予防
【外用】口内炎、乾燥肌、ニキビ
おすすめ利用法
食用(花・若葉・根)、ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ、浸出油、湿布、手作り化粧品
ハーブティーの味
ほぼ無臭、ほのかな甘味と葛湯のようなとろみがある
カフェインの有無
ノンカフェイン

マーシュマロウの成分と作用

マーシュマロウティーに期待される効果

呼吸器・粘膜のサポートに

喉の痛み・咳のケアに

古代エジプトやギリシア時代から「喉に良いハーブ」として重用されたという伝承も残るマーシュマロウ。現在でもマーシュマロウ・ルートは喉を覆う粘膜の痛みと腫れの軽減に役立つハーブとして、欧米ではハーブ系のドロップや咳止めシロップなどに配合されています。こうした働きはお菓子マシュマロ製造のヒントともなった、葛野のようなトロリとした粘液質によるものと考えられています。多糖類によって構成される粘液質は当然ながら人体を覆う粘液とは別物ですが、粘液性物質の膜となって喉をコーティングすることで炎症部位をカバーする・粘膜の再生をサポートしてくれると考えられています。

加えてマーシュマロウの根には抗炎症作用を持つ可能性が報告されているケルセチンなどのフラボノイドが含まれています。このため粘液質によるコーティングで粘膜への刺激を緩和するだけではなく、起こしている炎症を経験する働きも期待されています。2018年8月に『Complementary Medicine Research』に発表されたマシュマロ根抽出物についての小規模な調査では、マーシュマロウの根を配合した咳用製剤が咽頭刺激の対症療法および関連する空咳の軽減に役立つことが報告されています。

しかしながら、マーシュマロウの作用についての研究は“製剤”の評価が大半で、大規模な実験もほとんど行われていません。ハーブティーとして摂取した場合については更に分かっていませんが、マーシュマロウの根は野菜感覚で食べられている食材。毒性や刺激の強い成分も含まれていないと考えられていますから、喉のサポート・ちょっと喉に違和感があるときなど風邪薬を飲むよりも早期のセルフケアに取り入れてみても良さそうですね。喉のイガイガや声枯れなどの不快感軽減の他、口内の粘膜に対しても保護・抗炎症作用が期待できるため口内炎予防にも繋がる可能性もあります。ちなみに、マーシュマロウの粘膜保護作用を期待する場合は水出しした方が粘液質を多く抽出でき、より高い効果が期待出来ると言われています。


胃腸機能サポートに

マーシュマロウに含まれている粘液質やフラボノイドによる粘膜保護・抗炎症作用は、喉だけではなく消化器のサポートとしても役立つと考えられ使用されてきました。研究としてはマーシュマロウの花抽出物が胃潰瘍予防に役立つ可能性を示唆した実験報告がある程度で、マーシュマロウの根の働きは分かっていません。このため民間療法の中でも薬感覚で使用されることはありませんが、暴飲暴食やストレスなどでダメージを受けやすい胃腸を労るために取り入れられる事はあるようです。胃潰瘍予防もその一環といったところでしょう。

とは言えハーブティーやチンキという形で摂取すれば気管ではなく食道を通りますから、気管支炎に対しての抗炎症作用よりは可能性として高いのではないでしょうか。粘膜保護に役立つことから胃食道逆流症のケアに良いのではという説もあります。胃腸のオーバーワークが気になる時には食生活の見直しと合わせてペパーミント、胃痛がある時にはカモミールなどとブレンドしてみても良いでしょう。マーシュマロウは飲み会が増えて暴飲暴食傾向になるだけではなく、カラオケなど喉を使う機会も増える忘年会や歓送迎会シーズンのお供に役立つハーブの一つでもあります。


お腹の調子を整える

マーシュマロウの粘液質には粘膜を保護する働きが期待されているだけではなく、多糖類によって構成されており体内で消化されにくいことから潤滑剤のような形でスムーズな排便をサポートしてくれるのではないかという見解もあります。またD-ガラクトースなどが結合した多糖類は食物繊維として働くこと・マーシュマロウには水溶性食物繊維(ペクチン)が含まれていることからもお腹の調子を整える働きが期待されています。収斂作用によって腸を引き締める=痙攣を抑える働きを持つタンニンも含まれているため、下痢をしやすい方のサポートにも使われます。

粘液質によって胃腸の粘膜をカバーすることで荒れてしまった腸粘膜の修復を促し、下痢によって荒れてしまった腸の回復・腸内環境を整えることに繋がる可能性もあります。ペクチンは善玉菌の栄養源となることで腸内善玉菌の増殖・活発化を助けるプロバイオティクスの一つにも数えられている存在。マーシュマロウが粘膜保護作用や抗炎症作用を発揮するかについては断定されていませんが、食物繊維類の補給からも腸内環境・お腹の調子を整える手助けが期待できます。

そのほか期待される作用

抗酸化サポート・血管疾患予防に

粘液質の働きに注目されがちなマーシュマロウですが、様々なポリフェノールを含み抗酸化作用が期待できるハーブでもあります。ケルセチンなどのフラボノイド類以外に香り成分として紹介されることの多いクマリンも抗酸化作用を持つポリフエノールの一種で、抗血液凝固作用を持つことが報告されている成分でもあります。ケルセチンも血管弛緩作用やコレステロール低減作用を持つことも報告されており、臨床実験でも動脈硬や脳血管疾患の予防に役立つ可能性が示唆されています。

抗酸化物質の補給によって酸化による体への悪影響を抑えると共に、こうした働きを持つ成分も補給できることから高血圧や動脈硬化などの生活習慣病予防にも役立つ可能性があるでしょう。活性酸素/フリーラジカルの過剰増加は血管疾患のリスクを高めるだけではなく、老化を促進させる原因の一つにも数えられています。マーシュマロウは抗酸化物質の補給源として若々しさや健康を維持する手助けにも期待できます。


感染症予防・アレルギー軽減にも期待

マーシュマロウには直接的に免疫細胞に働きかけるような成分は含まれていないと考えられますが、粘液質による粘膜保護作用が期待できることから風邪などの呼吸器感染症の予防に役立つ可能性もあります。マーシュマロウにはタンニンやクマリンなど抗菌作用を持つ成分も含まれていますから、抗菌消毒作用からも風邪予防のサポートが期待できます。また、粘膜をカバーすること・ケルセチンによる抗炎症作用を持つことから、花粉症の症状軽減に役立つのではないかという見解も。風邪・インフルエンザ予防ならエルダーフラワー、花粉症対策ならネトルなどと組み合わせて摂取してみても良いかもしれませんね。


むくみ・尿路トラブルにも…?

マーシュマロウは伝統的に利尿薬のような感覚で使用されてきたハーブの一つでもあります。利尿作用を持つと信じられたことに加えて、内臓の粘膜を助けると考えられたことから尿道炎・膀胱炎・尿路結石などの予防や治療に使われた時期もあるのだとか。現在は医学的にこうした有効性は認められていませんが、マーシュマロウ抽出物を使用した小規模な研究では抗炎症作用によって尿路内部の炎症や痛みを緩和出来る可能性を示唆したものもあるようです。そのほかマーシュマロウには尿量を増加させることで利尿作用を発揮することが報告されているアスパラギン酸が含まれていることから若干の利尿作用を持つ、抗菌作用によって尿路感染症の予防に役立つという説もあります。

お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果

口腔・喉のケアに

粘膜の保護・炎症軽減が期待できることから、マーシュマロウはマウスウォッシュ代わりに利用されたりることもあります。長めに口の中に含んでいることでより口内炎の予防や痛みの軽減に期待できますし、喉の痛みや不快感に対してハーブティーをうがい薬のような形で使用することもあります。市販のもののように清涼感はありませんが喉にしみる感じが少ないため、強いうがい薬が苦手な方・飲み込んでしまいそうなお子さんに適しているという見解もありますよ。タンニンなどによる抗菌作用や収斂作用が期待できることと合わせて歯肉炎や虫歯予防に役立つ可能性もあるでしょう。

スキンケアに

マーシュマロウは喉のサポータとしてだけではなく、皮膚のケアに役立つと考えられているハーブでもあります。マーシュマロウの粘液質には皮膚の保護作用や保湿作用が期待できるとして、天然成分を売りにしたスキンケア商品や軟膏に配合されていることもあります。肌に潤いを与えて硬くなった皮膚を軟化してくれる成分、抗菌作用や抗炎症作用によってニキビなどの皮膚トラブルを予防する働きも期待されおり、肌荒れ・乾燥対策としてスキンケアに利用する方もいらっしゃいます。

マーシュマロウが皮膚に対して持つ作用についての研究も行われており、紫外線による炎症を軽減する可能性を示唆した報告もなされています。しかし評価できるほどの研究数はなく、現時点では皮膚炎症緩和や創傷治癒の促進、ひび割れのような極度の乾燥や角質化に有効であるかは分かっていませんどちらかというと“おばあちゃんの知恵袋”的な使われ方をしているハーブですから、身近に生えているわけではない日本であえてマーシュマロウを使用する利点は低いでしょう。

マーシュマロウの注意事項

  • 妊娠中・授乳中の方や小さいお子さんの摂取について、安全性を評価する十分なデータはありません。不安な場合は使用を控える方が良いでしょう。
  • 粘液質によって薬の吸収・作用を阻害する可能性があります。薬を服用する前後2時間程度は避けましょう。また、血糖値に影響を与える可能性があるため、糖尿病の方は医師に相談の上利用してください。

参考元