美しい色の変化が魅力的な「夜明けのハーブ」
淹れたての青色から時間経過によって青紫色へ、レモン汁などを加えると桜色にと色の変化が楽しめるマロウブルー。色は綺麗なものの味や香りはほとんど無いため様々なハーブとブレンドしやすく、自分へのご褒美からおもてなし用にも活躍してくれるハーブティーです。マーシュマロウと同様に粘液質を含み粘膜の保護・修復が期待できることから、喉のイガイガ感や痛みのケア、便秘対策、乾燥肌の方のスキンケアなどにも活用されています。
Contents
マロウブルー/コモンマローとは
植物紹介:ウスベニアオイ
バタフライピーよりもやや淡めの神秘的な水色が見た目にも楽しいマロウティー。特徴的な見た目からマロウブルーやブルーマロウとも呼ばれています。ハーブティーは数多く存在していても、マロウブルーのような青色であったり、ハイビスカスのようなピンク色であったりと目に鮮やかなお色のお茶が楽しめるものはレアですよね。単にマロウティーやマルバフラワーと呼ばれることもあります。原料としてはどれも基本的にアオイ科ゼニアオイ属のうち学名Malva sylvestris、和名をウスベニアオイという種類の花が使われています。
マロウは広義ではゼニアオイ属の植物全般、時にはタチアオイ属のマーシュマロウなども含むことがありますが、英語圏ではコモン・マローと呼ぶ方もいらっしゃるように最も一般的な“マロウ”なのでしょう。様々な呼び名で呼ばれるのでいくつか種類があるようにも感じますが、基本的にはどれも同じ種を指しています。ちなみに日本でよく見かける帰化植物ゼニアオイも同じく英名ではコモンマロウと呼ばれており、こちらは植物分類上ウスベニアオイの変種(Malva sylvestris var. mauritiana)として扱われることもあります。
また、お菓子“マシュマロ”の語源でハーブとしても活用されているマーシュマロウも“mallow”が付きますし、和名もウスベニタチアオイとよく似ているので紛らわしい存在。近縁種ゼニアオイの花はハーブティーとしても利用されておりマロウブルー同様のにティーの色は青、マーシュマロウは基本的に根が使われる事が多く青色にはなりません。ちなみに、ハーブティー用の乾燥した花や“マロウブルー”という別名から青い花のイメージもありますが、和名で“薄紅”とつけられているようにコモンマローの生花の色は薄ピンクから赤紫色。ゼニアオイも同じです。
コモンマロウの花はエイティブルフラワーとしても使用されており、同じく食用可能な若葉と共にサラダの彩りなどに使用されることもあります。また、根も食用可能でスープの具などに、果実(種子のさや)部分もサラダにしたり粘液質を生かしてディップソースや卵白の代用品としてメレンゲ作りに活用されることもあるそう。コモンマローの果実はドーナツ状に連なっており、この形がチーズのようだということで“cheeses”と呼んだり、コモンマローのことをcheeseplantやcheese mallowと呼ぶこともあるそうです。
コモンマロウ(ウスベニアオイ)の原産は南ヨーロッパから北アフリカにかけての地域と推測されており、ヨーロッパでは紀元前から採集して各部位を食してきたと考えられています。紀元前3世紀には古代ギリシアの哲学者で「植物学の祖」とも称されるテオプラストスによって“wild vegetables(山菜)”として記録され、1世紀にはペダニウス・ディオスコリデスがマロウを消化器サポートや皮膚に対する外用薬として言及しているようです。家庭薬としてお家の庭で栽培していたという説もありますよ。
マーシュマロウと同じく粘液質に有益な作用があると考えられ、16世紀頃には緩下・浄化作用を持つハーブであることから万能薬のように扱われたこともあるそう。現代でも粘液質による粘膜保護効果が期待されていることから、オペラ歌手が喉を乾燥から守り美声のために取り入れているハーブとして紹介されることもあります。とは言え、ブルーマローティーの魅力は何と言ってもその神秘的なお色。淹れたての宝石のような透き通った青色だけでも十分に綺麗ですが、時間経過と共に紫がかった色へと変化していきます。さらにレモン汁などを加えると桜のようなピンク色へ、と変化する色を眺めるだけでも心が癒やされるのではないでしょうか。フランスでは「夜明けのティザーヌ(ハーブティー)」と称されている、ロマンチックで楽しいハーブティーです。
基本データ
- 通称
- マロウ・ブルー(Mallow Blue)
- 別名
- 薄紅葵(ウスベニアオイ)、ブルーマロー(Blue mallow)、コモンマロウ(common mallow)、ハイマロウ(high mallow)、マルバフラワー(Malva flower)など
- 学名
- Malva sylvestris
- 科名/種類
- アオイ科ゼニアオイ属/多年草
- 花言葉
- 魅力的、穏やか、温厚、柔和な心
- 誕生花
- 8月3日、8月14日、10月28日
- 使用部位
- 花(※葉を含むものも有)
- 代表成分
- アントシアニン系色素(デルフィニジン、マルビン)、フラボノイド(テオリン、ケンフェロール、アピゲニン、ケルセチンなど)、粘液質(L-ラムノース、L-アラビノース、D-ガラクトースなどの多糖類)、タンニン、フィトステロール、精油など
- 代表効果
- 粘膜保護、抗炎症、緩下、整腸、収斂、抗酸化、抗不安、保湿、皮膚軟化
- こんな時に
- 喉のイガイガ感・痛み、空咳、胃腸炎予防、便秘、下痢、目の疲れ、ドライアイ、眼精疲労予防、ストレス対策
【外用】乾燥肌、ニキビ、口内炎 - おすすめ利用法
- ハーブティー、ハーバルバス、ハーブチンキ、湿布、スチーム吸引、手作り化粧品
- ハーブティーの味
- 微かにフローラル感を感じるものもあるが、ほぼ無味無臭
- カフェインの有無
- ノンカフェイン
マロウブルー/コモンマローの成分と作用
マロウブルーティーに期待される効果
粘膜・視機能のサポートに
喉の不快感・咳のケアに
ブルーマロウ(コモンマロウ)もマーシュマロウと同じく、伝統的に喉や消化器のサポートに使用されてきた歴史があります。こうした利用はマーシュマロウと同様に根や葉・花に粘液質が多く含まれており、トロリとした粘り気が粘膜を保護する・潤すと考えられたためでしょう。多糖類によって構成される粘液質は当然ながら人体を覆う粘液とは別物ですが、粘液性物質の膜となって喉をコーティングすることで炎症部位をカバーする・粘膜の再生をサポートすることで乾燥による喉の痛み・イガイガ感などの緩和に役立つのではないかと期待されています。
加えてコモンマロウには抗炎症作用を持つ可能性が示唆されているケルセチンなどのフラボノイド、アントシアニン類が含まれています。このため喉の粘膜を保護・修復する働きと合わせて咳などの呼吸器症状の軽減にも期待されており、民間療法・ハーブ療法の中では去痰作用と抗刺激作用があるとして気管支炎や咽頭炎のケアに使用されることもあるようです。しかしながら、マーシュマロウ以上にコモンマロウの粘膜保護作用については研究数が少なく伝統的効能の信憑性・有効性は分かっていません。
粘液質は日本でポピュラーな花部分よりも葉・根などに多く含まれていることが確認されていますから、花部分のハーブティーを飲んでのメリットについて期待しないほうが無難でしょう。何らかの疾患・不調のケアというよりは、日常的にタバコを吸われる方やカラオケが好きな方、喉が弱い方のサポートとして利用する程度が良いと考えられます。喉の調子を守るセルフケアとしてはヒソップやリコリスなどと組み合わせて飲んでみるのもお勧めです。
消化機能のサポートにも
古くは古代ギリシアの医師ペダニウス・ディオスコリデスが消化器系の問題に良いと言及したとも伝えられるように、ブルーマロウは喉だけではなく消化器のサポートにも使用されてきました。そのほかニコラス・カルペパーが息子の腸の炎症時にマロウを使ったという伝承もあり、現代でも胃腸の粘膜の保護・修復作用や炎症緩和が期待されています。こうした働きもブルーマロウに含まれている粘液質やフラボノイドによる粘膜保護・抗炎症作用によるところが大きいと考えられます。
上記と同様に粘膜保護作用については分かっていませんが、イランのシラーズ医科大学で行われた大腸炎誘発ラットを使用した実験ではブルーマロウ水抽出物投与によって大腸炎の炎症症状を減少させたことが2015年『Journal of Evidence-Based Complementary&Alternative Medicine』に発表されています。その他に大腸菌やグラム陽性菌などに対する抗菌活性なども報告されていることから、合わせて胃炎や腸炎の予防にも注目されています。現時点では有効性が認められているものではありませんが、暴飲暴食やストレスで弱った胃腸のサポート目的で取り入れてみても良いでしょう。
また、ブルーマロウは排便関係の不調にも取り入れられてきました。これはD-ガラクトースなどが結合した多糖類は食物繊維として働くことが挙げられます。収斂作用を持つタンニンも含まれているため、腸の過剰な蠕動運動(痙攣)を抑えつつ安定した排便のサポートが期待されています。下痢をしやすい方であればカモミール、便秘気味の方であればローズヒップやハイビスカスなどとブレンドしても良いかもしれません。ブルーマロウのお茶は味がほとんど無いので、ブレンドすると飲みやすくもなりますよ。
疲れ目・ドライアイ対策にも期待
ブルーマロウ(コモンマロウ)フラワー最大の特徴と言えるのが美しい青色。ハーブティーの水色として表れる青色を構成しているのはポリフェノールの一種であり、天然の色素成分であるアントシアニン類によるものであることが分かっています。アントシアニンは抗酸化作用を筆頭に様々な機能性を持つ可能性が報告されている成分で、目の網膜部分に存在するロドプシンの再合成促進作用が見られたとの報告もなされています。ロドプシンは視神経の伝達物質で、光の刺激を受けると分解されることで情報を脳へと伝える役割があります。分解されたロドプシンは再合成され、再び分解されて脳へ情報を伝えるというサイクルを繰り返しています。
しかし、加齢や視機能の酷使などでロドプシンの再合成が滞ると疲れ目やかすみ目・視力低下・眼精疲労など視覚に不調が出る可能性があります。目の疲れや視力低下(仮性近視)などの原因が全てロドプシンの再合成速度低下というわけではありませんが、原因の一つであるロドプシンの再合成を活性化するアントシアニンは視機能サポートに役立つのではないかと注目されています。とは言え、ブルーマロウに含まれているアントシアニン類が作用するのか・ティーとして摂取した場合の有効性については分かっていません。もしかすると目の疲労軽減や抗炎症作用があるかもしれない…そのくらいの感覚で取り入れてみましょう。
そのほか期待される作用
抗酸化サポート・血管疾患予防に
マロウブルー(コモンマロウ)に含まれているアントシアニン類は抗酸化作用を持つ成分でもあります。その他にもマロウブルーにはフェノール類やフラボノイド類が含まれており、ラジカル消去活性を含む抗酸化特性を持つことが報告されています。活性酸素/フリーラジカルは少量であれば私達の身体を守るためにも必要な存在ですが、過剰に増えすぎると健康な細胞を酸化させることで老化や様々な不調を引き起こす原因となることが指摘されています。このことから抗酸化物質を補給することで健康な体を守り、若々しさを維持する手助けが期待されています。
抗酸化物質の補給は血中脂質の酸化を抑制することで血流をスムーズに維持する働きも期待されています。加えてケルセチンには血管弛緩作用やコレステロール低減作用・アントシアニンにもコレステロール低減作用を示唆した報告もあります。抗酸化と合わせて動脈硬や心疾患・脳血管疾患の健康維持をサポートしてくれる可能性はあるでしょう。アンチエイジングや生活習慣病予防には高い抗酸化作用が期待されているローズマリーやセージなどとのブレンドも。
尿路トラブルにも…?
粘膜保護・修復作用と抗炎症作用が期待できることから、ブルーマロウのお茶は伝統的に膀胱炎や尿道炎などの尿路トラブルの緩和にも利用されてきました。直接的な利尿作用や殺菌作用を持つとする説もありますし、伝統医療・民間療法の中では腎臓結石や腎炎などに利用されるケースもあるのだとか。しかしマロウブルーは医学的研究において有効性は認められているものでもありませんし、炎症を起こしている・痛みがある時には自己診断せずに医療機関で治療を受ける必要があります。予防もしくは再発予防として取り入れる程度にしましょう。
ストレス・不眠対策に
アオイ科植物は各地で伝統的に抗不安・抗ストレス・不眠緩和などメンタル面でのサポートに使用されてきました。マロウブルー(コモンマロウ)も神経系を落ち着かせる働きが期待されており、イランで行われたマウスを使った動物実験ではコモンマロウ水性アルコール抽出投与群に不安の軽減が見られたことが2017年『Avicenna Journal of Neuro Psycho Physiology』に発表されています。この論文の中ではマロウに含まれる粘液質に神経伝達物質の産生とGABAのレベルを増加させる可能性があることが示唆されています。人に対しての作用については分かっていませんが、綺麗なお色をゆったり眺めながらハーブティーを楽しむことでもリラックスに繋がるでしょう。
マロウティーの色の変化について
マロウティーの魅力は絵の具を溶いたような深く綺麗な青紫色。淹れたての時には“青”が強い色合いですが、時間の経過と共に少しずつ“赤”っぽさが出て紫色へと変化していきます。「夜明けのハーブティー」と称されるのも、このゆっくりとした神秘的な色調の変化が由来。こうした変化は色味の元となっているアントシアニンの酸化によって起こるもので、アントシアニンが酸性の時には赤色・中性に近ければ紫色・アルカリ性ならば青色のニュアンスが強くなります。熱湯で浸出するよりも水出ししたほうが綺麗な青色になるのもこの性質によるもの。
このため時間経過での色の変化だけではなく、マロウティーにレモン汁やクエン酸・カルピスを加えるとピンクに近い紫色に水色が変化します。何も入れないブルーマロウティーは紫がかった青色ですが、重曹やにがりなどアルカリ性のものを加えると青みが増してライトブルー系の色に変化します。と言ってもこちらは美味しく無くなってしまうので、お茶として楽しむと言うよりは自由研究などの実験向きかもしれませんが。
マロウブルーのお茶は浸出する温度でも色味が変わり、お湯で浸出する場合は濃い目の青紫色、水出ししたマロウティーは水色系の明るいお色になります。沸騰したお湯で出そうとすると色がほとんど出ないので、お湯出しとは言っても緑茶と同じくらい(80℃程度)の温度で進出しましょう。“ブルー”感を長く楽しみたいときは、お湯ではなく水出しするのがお勧め。それでもあまり長く放置していると酸化が進み黄色みが強くなる→最終的には薄茶色になります。
余談ですが、アントシアニンには鉄と結びつくと黒ずむ性質があります。ブルーマロウティーを淹れる際に鉄瓶などを使用してしまうと、綺麗な色が出ない可能性があります。金属製のものではなく陶器・ガラスポットを使うと良いでしょう。色こそ個性的ですがマロウブルーティー自体はほとんど味も香りもないお茶。キープしておくととっておきのブレンド用・来客時のおもてなし用などにも活躍してくれますよ。
お茶以外の使い方(外用)で期待できる効果
スキンケアに
マロウブルー(コモンマロウ)は皮膚トラブルのケアに塗布することで使用されることもあります。抗炎症作用を持つ成分が多く含まれていることから欧米では虫刺され・打撲傷・日焼けなどに対する製品にコモンマロウエキスが配合されていることもあります。粘液質についても肌に直接塗布することで保湿・鎮静(消炎)効果を発揮するのではないかと考えられ、抗菌作用も期待できることから民間療法の中では傷や火傷などの手当に使われることもあるそう。
また粘液質は皮膚を保護することで保湿・皮膚軟化作用が期待出来るとして乾燥肌のケアにも使用されています。そのほか抗酸化作用によるアンチエイジング・収斂作用による皮膚の引き締めやニキビ予防効果なども期待され、石鹸・スキンケア製品・化粧品類の成分としてもコモンマロウ抽出物は使用されています。
マロウブルーが皮膚治療からスキンケアまで多用されるのは、刺激性が低く敏感肌・乾燥性敏感肌にも負担が少ないからだという説明もあります。しかしハーブ類が肌に合うかは個人差も大きく、人によってはピリピリ感やかぶれの原因にもなるため注意が必要。コモンマロウ配合製品は安全性や有効性が検査されているものもありますが、コモンマロウの花や葉から自作する場合の機能性については分かっていません。日本で言うところの“おばあちゃんの知恵袋”的な自作スキンケアとなりますから、試す場合はお肌の調子を確認しつつ使用して下さい。
お口と喉のケアにも
粘膜の保護・炎症軽減が期待できることから、ブルーマローティーはうがい薬・マウスウオッシュのような形でも利用されます。長めに口の中に含んでいることでより口内炎の予防や痛みの軽減、喉のイガイガ感や痛み・口の乾きが気になる際のセルフケアに繋がると考えられます。市販のもののように清涼感はありませんが、強い清涼感や喉にしみる感じが苦手な方でも使用できます。また、抗菌・抗真菌作用が報告されていること、タンニンによる収斂作用が期待できることから歯肉炎や虫歯予防に役立つ可能性もあります。
マロウブルー/マルバフラワーの注意事項
- お茶として通常量を摂取する場合は特に問題はないとされています。
- 妊娠中・授乳中の方や小さいお子さんの摂取について、安全性を評価する十分なデータはありません。不安な場合は使用を控える方が良いでしょう。
参考元
- Common Mallow facts and health benefits
- Malva sylvestris – European Medicines Agency [PDF]
- Effects of Malva sylvestris and Its Isolated Polysaccharide on Experimental Ulcerative Colitis in Rats
- Effects of Mallow, (Malva Sylvestris) Extract on Reducing Anxiety in Animal Model